絶対値

生徒に絶対値の定義は?と聞くと十中八九「距離です」と答えます。実際,教科書を見ると

数直線上で,実数\(a\)に対応する点と原点との距離を\(a\)の絶対値といい,記号\(|a|\)で表す

『高等学校 数学Ⅰ』数研出版

 
とあります。\(|3|\)とか\(|-5|\)などを考えるにはこの理解で問題ないでしょう。

しかし,この少し後で学ぶ\(|x|\)や\(|x-4|\)などを含む方程式・不等式が現れると途端に分からなくなる,という生徒がすごく多いのです。確かに「『絶対値は距離』だから\(x-4\)までのキョリ?どういうこと??」と大混乱してしまうのはまったく無理もないと思います。これは,その生徒ではなく教科書の定義の仕方自体に原因があると思う。「距離」なんてものを持ち出して中途半端に視覚化して理解させようとするから(応用問題において)逆に混乱させてしまう。

というわけで教科書はあまり当てにならないので,手元の微分積分学の本では絶対値をどう定義しているか見てみると,例えば

\(M=\{a,-a\}\)に対し\(\max M=|a|\)とかき,\(a\)の絶対値という.

笠原晧司『微分積分学』サイエンス社

 
とあります。これは換言すれば,次のようになります

絶対値の定義\[|a|:=\begin{cases}a\quad(a\geq 0) \\ -a \quad(a<0)\end{cases}\]

スローガン風に言えば,「‘中身’をムリヤリ正にする記号」,ということです。ここに「数直線」や「距離」などを持ち出す必要はありません。多くの数学書がそうしているように,これを明確に定義とすべきだと思います。このように理解しておけば,上記の\(|x-4|\)の例でいえば

\(|x-4|\)?中身\(x-4\)をムリヤリ正にしたいわけね
→そら中身の\(x-4\)が正か負かで扱い変わるでしょ
→でも\(x-4\)の正負って\(x\)に入る値によって変わるよね
→\(x\geq 4\)なら正なんだからはなから正だわこれ,そのまま外すわ
→\(x<4\)なら負ね,こいつをムリヤリ正にしたいってことは\(-1\)かければいいよね

と自然に頭が動くと思う。

「(困ったら)定義に戻って考える」というのは数学の重要な姿勢のひとつだと思うんですが,そのように定義に立ち戻って考えた人間が混乱するような記述はいかがなものか,と思います(が,教科書通りやらないと注意されたりするんだよなあ…)。

(おわり)

 

 

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