同値変形の重要性

前回,式の記述について投稿しました.なぜ,あのような考え方が重要なのでしょうか.例えば,こんな問題があったとします.\[2-x=\sqrt{x}\text{ を解け.}\]

よくある誤答.

【誤答】
\[\begin{align*}
2-x&=\sqrt{x}\\
(2-x)^2&=x\\
x^2-4x+4&=x\\
x^2-5x+4&=0\\
(x-4)(x-1)&=0
\end{align*}
\]
ゆえに,\[x=1, 4\]
(誤答終)

どこがおかしいのでしょうか?得られた解のひとつ\(x=1\)を与式に代入すると,
\[\begin{align*}
2-1&=\sqrt{1}\\
1&=1
\end{align*}
\]
となり矛盾はありません.しかし\(x=4\)を与式に代入すると,
\[\begin{align*}
2-4&=\sqrt{4}\\
-2&=2
\end{align*}
\]
となり矛盾します.ここで,元の与式をよく観察すると,左辺の\(\sqrt{x}\)は必ず正であるから,当然右辺\(2-x>0\)も正すなわち\(x<2\).したがって,得られた解のうち\(4\)の方は不適な解であることが分かります.このことに注意すると,以下のように解答を修正でき,正答が得られます.

【解答】
\[\begin{align*}
2-x&=\sqrt{x}\\
(2-x)^2&=x\\
x^2-4x+4&=x\\
x^2-5x+4&=0\\
(x-4)(x-1)&=0
\end{align*}
\]
ゆえに,\[x=1, 4\]
ここで,\(x<2\)であるから,解は\[x=1\]である.(解答終)

この解答を,論理記号を用いて正確に記述し直してみましょう.

【解答’】
\[\begin{align*}
&~2-x=\sqrt{x}\\
\Longrightarrow&~(2-x)^2=x\\
\Longrightarrow&~x^2-4x+4=x\\
\Longrightarrow&~x^2-5x+4=0\\
\Longrightarrow&~(x-4)(x-1)=0
\end{align*}
\]

すなわち,

\[2-x=\sqrt{x}\Longrightarrow x=1\lor x=4\]を得る(\(\lor\)は論理記号で「または」の意).この時点では,\(x=1\lor x=4\)は必要条件にしか過ぎない.だから,次にこの十分性について調べる.すなわち,\[2-x=\sqrt{x}\Longleftarrow x=1\lor x=4\]について調べる.\(2-x=\sqrt{x}\longleftarrow x=4\)は偽である.他方,\(2-x=\sqrt{x}\longleftarrow x=1\)は真である.すなわち\(2-x=\sqrt{x}\Longleftarrow x=1\).よって(※),\[2-x=\sqrt{x}\Longleftrightarrow x=1\]を得る.(解答’終)

(※模式的にかけば\(p\Rightarrow q\lor r\),\(p \Leftarrow q\),\(\overline{p\Leftarrow r}\)のとき,\(p \Leftrightarrow q\)すなわち
\[(p\rightarrow q \lor r) \land (p \leftarrow q) \land (\overline{p \leftarrow r}) \Longrightarrow (p\leftrightarrow q)\]
なのですが,これは真理表で確認できます)

この解答は,いってみれば「とりあえず十分性を考えず必要性だけを意識して変形して,最後の最後に\(2-x=\sqrt{x}\)の十分性を考えた」となります.模式的に書けば,\[P_1\Longrightarrow P_2\Longrightarrow P_3\Longrightarrow\cdots \Longrightarrow P_n\]と変形してから,\[P_1\Longleftarrow P_n\](十分性)を確認する,という考え方(★)です.もちろん間違ってはいないんだけど,個人的に気になる点が2つ.

  • 最初の【解答】で示した解答を作る人は,論理を意識していないことが多い.だから,そもそも「逆を確認しよう」なんては考えない.結果,これを他の分野にも跨る「論理の問題」として捉えず,「この問題『特有の』解法」として「記憶(暗記)」することになる(「無理方程式では,最後に解を満たすかどうか確認すればいいのね!」・・・などと).統一的な視点は連鎖的な理解を生み,その記憶の保持にもほとんど労力を要さない.対して,他の知識と紐づけされない孤立した知識は脳みそにいらぬ負担をかけることになる.そして苦労して記憶したわりに応用がきかないというオマケつき.
  • この「最後に逆を確認する」という作業が,今回のように簡単であれば問題ない.しかし,数学Ⅱの「軌跡」分野のように,逆の考察が難しい場合は何をもって逆を確認するのか(本によっては理由もなしに「逆も成り立つ」の一言で済ませている記述もある.この類の記述は本当に無責任だと個人的に思う.参考:軌跡の問題を論理式で記述する).

というわけで,(★)のような考え方(記述)はよく見かけます.が,他に考え方はあるのでしょうか.(つづく

© 2024 佐々木数学塾, All rights reserved.