◆軌跡と同値変形その1

\begin{align*}
&\exists m \left[X=\frac{16m^2}{4m^2+1} \land Y=m(X-4)\land m^2<\frac{1}{12}\right]\\
\Longleftrightarrow~&\exists m\left[X=\frac{16m^2}{4m^2+1} \land Y=m(X-4)\land m^2<\frac{1}{12} \land (X=4 \lor X \neq 4)\right]\\
\Longleftrightarrow~&\exists m\left[\left(X=\frac{16m^2}{4m^2+1} \land Y=m(X-4)\land m^2<\frac{1}{12} \land X=4 \right)\right.\\
&\lor \left.\left(X=\frac{16m^2}{4m^2+1} \land Y=m(X-4)\land m^2<\frac{1}{12} \land X \neq 4\right)\right]\\
\Longleftrightarrow~&\exists m\left[X=\frac{16m^2}{4m^2+1} \land m=\frac{Y}{X-4}\land m^2<\frac{1}{12} \land X \neq 4\right]\tag{0}\\
\Longleftrightarrow~&X=\frac{16\left(\frac{Y}{X-4}\right)^2}{4\left(\frac{Y}{X-4}\right)^2+1} \land \left(\frac{Y}{X-4}\right)^2<\frac{1}{12} \land X \neq 4\\
\Longleftrightarrow~&\frac{(X-2)^2}{4}+Y^2 = 1 \land \left|\frac{Y}{X-4}\right|<\frac{1}{\sqrt{12}} \land X \neq 4\\
\Longleftrightarrow~&\frac{(X-2)^2}{4}+Y^2 = 1 \land |Y|<\frac{1}{\sqrt{12}}|X-4| \land X \neq 4\\
\Longleftrightarrow~&\frac{(X-2)^2}{4}+Y^2 = 1 \land 0 \leq X < 1 \land X \neq 4 &\tag{\(\ast\)}\\
\Longleftrightarrow~&\frac{(X-2)^2}{4}+Y^2 = 1 \land 0 \leq X < 1\\
\end{align*}

\((\ast)\)は下図による.


\((0)\)以降の別変形はこちら

同値変形で遊ぶ

\(x,y\)が\(4\)つの不等式\[x \geq 0,~y \geq 0,~2x+y \leq 8,~2x+3y \leq 12 \]を同時に満たすとき,\(x+y\)の最大値,最小値を求めよ.

出典:高等学校 数学Ⅱ 数研出版

数学Ⅱ教科書の「軌跡と領域」における最後に登場する中ボス的な有名問題です.いわゆる「線型計画法」によって解く問題ですね.「領域を描いて~直線がその領域に触れる範囲内で切片が最大・最小のものを答えて~」みたいなやつ.

これを教科書のように絵に頼らず,論理式で記述してみます.

解答

\begin{align*}
&x+yがkという値をとる\\
\Longleftrightarrow~& \exists x \exists y [x+y=k \land x \geq 0 \land y \geq 0 \land 2x+y \leq 8 \land 2x+3y \leq 12]\tag{1}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x \exists y[y=k-x \land x \geq 0 \land y \geq 0 \land 2x+y \leq 8 \land 2x+3y \leq 12]\tag{\(\ast\)}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [x \geq 0 \land k-x \geq 0 \land 2x+(k-x) \leq 8 \land 2x+3(k-x) \leq 12\tag{2}]\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x]\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [(x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x)\land (3k-12<0 \lor 0 \leq 3k-12)]\tag{3}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [(x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x \land 3k-12<0) \\
&\lor (x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x \land 0 \leq 3k-12)]\tag{4}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x \land 3k-12<0] \\
&\lor \exists x[x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x \land 0 \leq 3k-12]\tag{5}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [0 \leq x \leq k \land 3k-12 \leq x \leq 8-k \land 3k-12<0] \\
&\lor \exists x[0 \leq x \leq k \land 3k-12 \leq x \leq 8-k \land 0 \leq 3k-12]\\
\Longleftrightarrow~& (0 \leq k \land 3k-12 \leq 8-k \land 3k-12<0) \\
&\lor (0 \leq k \land 3k-12 \leq 8-k \land 0 \leq 3k-12)\tag{6}\\
\Longleftrightarrow~& (0 \leq k \land k \leq 5 \land k < 4) \lor (0 \leq k \land k \leq 5 \land 4 \leq k)\\
\Longleftrightarrow~& 0 \leq k < 4 \lor 4 \leq k \leq 5\\
\Longleftrightarrow~& 0 \leq k \leq 5
\end{align*}

したがって,最大値\(5\),最小値\(0\).

\((1)\)は式の主張そのままなのですが,慣れないとこの言い換えが一番難しいかも知れません.この記事と同じ考え方です.
\((2)\)は存在記号の処理
\((3)\)は恒真条件\(3k-12<0 \lor 0 \leq 3k-12\)の追加
\((4)\)は分配法則
\((5)\)は存在記号の分配
\((6)\)はこちらの記事

…と,この解法はもはや完全に趣味ですね^^;大人しく教科書と同じく線型計画法で解いた方が明快でスマートだと思います.しかし,この解法のおもしろポイントは絵に頼らない(数直線はイメージしますが…)で論理を’計算’する感覚で機械的に答えにたどりつく,という点です(以前紹介した軌跡の問題と同じ).視覚的に解く以外にも,こういった論理だけでゴリゴリ攻める姿勢も身に付けておいても決して無駄にはならないと思います.

ちなみに教科書の解法(線型計画法)は\((\ast)\)の段階で視覚化を考えた,と考えられます.ですからいずれの解法にしても\((1)\)の言い換えは本来教科書レベルであっても必要なものだと思います.例によって「解ければいいや」で覚えて済ましがちですけどね.

軌跡と同値関係

原点\(O\)からの距離と点\(A(3,0)\)からの距離の比が\(2:1\)である点\(P\)の軌跡を求めよ.

教科書では「点\(P\)の軌跡を求める手順」を次のように言っています

    1. 条件を満たす点\(P\)の座標を\((x,~y)\)として,点\(P\)に関する条件を\(x,~y\)の式で表し,この方程式が表す図形が何かを調べる.
    2. 逆に,で求めた図形上のすべての点\(P\)が,与えられた条件を満たすことを確かめる.

引用元:『高等学校 数学Ⅱ』数研出版

 

で,その解法に従った解答が,

点\(P\)に関する条件は\[OP:AP=2:1\]
これより\[2AP=OP\]
すなわち\[4AP^2=OP^2\]
\(AP^2=(x-3)^2+y^2,~OP^2=x^2+y^2\)を代入すると\(4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\)
整理すると\(x^2-8x+y^2+12=0\)すなわち\((x-4)^2+y^2=2^2\).
よって点\(P\)は円\((x-4)^2+y^2=2^2\)上にある.
逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす.
したがって,求める軌跡は,点\((4,~0)\)を中心とする半径\(2\)の円である.

引用元:『高等学校 数学Ⅱ』数研出版

 

とあります.ここで疑問.

逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす」これは何?っていうか,なぜこんなことが言えるの?実際にその「すべての点」について「距離の比が\(2:1\)である」と調べたってこと?でも「すべての点」って,得られた図形は円だから円上の点,すなわち「無限個の点」ということでしょ?無限回計算して調べるわけ…??

…と思った人も少なくないはず.これ,疑問を持つほうが自然で,その人の理解力が無いんじゃなく,はっきり言って教科書のほうが悪い.まさに教科書特有のダメダメ記述の代表格.にもかかわらず何のフォローもないという.結果どうするか?「良く分からないから覚えよう」になる.だからあまり深く考えない人ほどテキトーにスルーして得点できる.こんな勉強を強いられる(真面目な)高校生が本当かわいそう.

別解を示します.

解答
\[
\begin{align}
&OP:AP=2:1\\
\Longleftrightarrow &~2AP=OP\\
\Longleftrightarrow &~4AP^2=OP^2\\
\Longleftrightarrow &~4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\\
\Longleftrightarrow &~x^2-8x+y^2+12=0\\
\Longleftrightarrow &~(x-4)^2+y^2=2^2\\
\end{align}
\]
したがって,求める軌跡は,点\((4,~0)\)を中心とする半径\(2\)の円.

このようにかけば逆の考察など必要ありません.その理由は,上のように一連の式の間の論理関係を見てらえればわかりますが,どれも同値変形だからです.このような同値記号を用いた記述であれば,このこと,すなわち「各式は明らかに同値だから,逆の考察はしないよ」という意思表示になっています.だから逆の考察は必要ない,というわけです.

対して,教科書の解答はどういう意図のもとに「逆に~」を書いているのでしょうか.解答では「これより」「すなわち」「整理すると」「よって」…という(数学的定義のない)日本語を多用しているところを見るに,各段階において十分性を意識せずに変形している,と考えられます(「最初に十分性を追わずに必要性だけ追っていき,あとで別枠で十分性を調べる」という論法自体は数学ではよく見られる方法で,それ自体は問題はありません).論理式で書けば

\[
\begin{align}
&OP:AP=2:1\\
\Longrightarrow &~2AP=OP\\
\Longrightarrow &~4AP^2=OP^2\\
\Longrightarrow &~4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\\
\Longrightarrow &~x^2-8x+y^2+12=0\\
\Longrightarrow &~(x-4)^2+y^2=2^2\\
\end{align}
\]

という構造になっているので,最後に元の条件と同値であるかどうか確認が求められる,だから上の論理式において「\(\Leftarrow\)も言えるよ」という意味で「逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす.」と書いたのでしょう.しかしこれもかなり譲歩して読み取ればの話で,解答の書き方では冒頭に記したように「\((x-4)^2+y^2=2^2\)をみたすすべての点,つまり無限個の点について距離の比が\(2:1\)であると無限回調べた」としか読み取れないと思うんですがね.

もちろん教科書特有の色々な制約の下でのやむを得ない記述なんでしょうけど,正直者が馬鹿を見る(真面目な;思慮深い生徒が躓く)的な記述はいかがなものか,と思う.せめて解答欄外でフォローしようよ,と思いますね.これだから教科書至上主義は危険です.

「いやそんなややこしいこと考えずともに最後に『逆に~』の一言を書いときゃそれでOKでしょ点数は貰えるし」と思う人.それは教科書レベルでの話.少し発展的な問題になると痛い目にあいますよ.

逆手流(存在条件に言い換える)

\(y=x+1~(0 \leq x \leq 2)\)の値域をもとめよ.

この問題を2通りの解法で解いてみます.

(解法1)

定義域\(0 \leq x \leq 2\)に属する\(x\)に対応する\(y\)を調べます.

\(x=0\)に対応する\(y\)は?\(y=0+1=1\).
\(\hspace{35mm}\vdots\)
\(x=1\)に対応する\(y\)は?\(y=1+1=2\).
\(\hspace{35mm}\vdots\)
\(x=2\)に対応する\(y\)は?\(y=2+1=3\).

と調べていけば,\(1\leq y \leq 3\)と求まります.この頭の動きを図示すると,

のようになります.矢印の向きに注意してください.重要なのは次の(解法2)の考え方です.

(解法2)

頭の中で何でもいいから実数を思い浮かべてください.
ここでは例えば,
\[2\]
と頭に思い浮かべたとしましょう.

次に,その\(2\)に対応する\(x\)の値を求めてください.
\[2=x+1~\Longleftrightarrow~x=1\]
よって,\(1\)と分かります.

では,例えば\(4\)ならどうでしょう?\(3\)に対応する\(x\)を調べてみます.
\[4=x+1~\Longleftrightarrow~x=3\]
よって,\(3\)と分かります.

さて,今二つの例を挙げましたが,この二つの例の違いは何でしょうか?それは,

\(2\)に対応する\(x\)は,定義域にある(存在する).
\(4\)に対応する\(x\)は,定義域にはない(存在しない).

ということです.図示すると,

これを,それぞれ次のように解釈します.

「\(2\)に対応する\(x\)が定義域に存在する\(~\Longrightarrow~\)\(2\)は求める値域(の点の1つ)」
「\(3\)に対応する\(x\)が定義域に存在しない\(~\Longrightarrow~\)\(3\)は値域(の点の1つ)ではない」

また,「値域」「定義域」という言葉の定義から逆も成り立つのは明らかですから,結局,

「\(2\)に対応する\(x\)が定義域内に存在する\(~\Longleftrightarrow~\)\(2\)は求める値域(の点の1つ)」
「\(3\)に対応する\(x\)が定義域内に存在しない\(~\Longleftrightarrow~\)\(3\)は値域(の点の1つ)ではない」

と言えます.したがって,「\(y=2\)は値域上の点だが\(y=3\)は値域上の点ではない」と分かります.

以上の考え方(頭に何か数字を思い浮かべ,その数に対応する\(x\)を調べ,それが定義域内にあるかどうかを調べる)を用いて他の点についても調べてみましょう.色々な点を頭に思い浮かべて….\(4,~1,~1.5,~0.5,~5,~\frac{7}{2},~3,~\frac{5}{2},~-\frac{1}{2},~-1\cdots\)

\(4\)に対応する\(x\)は?
\(3\)です.\(3\)は定義域の点ではないので,値域の点ではありません.すなわち,
「\(4\)に対応する\(x\)が定義域に存在しない\(~\Longleftrightarrow~\)\(4\)は求める値域(の点の1つ)ではない」

\(1\)に対応する\(x\)は?
\(0\)です.\(0\)は定義域の点なので,値域の点のひとつです.すなわち,
「\(1\)に対応する\(x\)が定義域に存在する\(~\Longleftrightarrow~\)\(1\)は求める値域(の点の1つ)である」

\(\frac{3}{2}\)に対応する\(x\)は?
\(\frac{1}{2}\)です.\(\frac{1}{2}\)は定義域の点なので,値域の点のひとつです.すなわち,
「\(\frac{3}{2}\)に対応する\(x\)が定義域に存在する\(~\Longleftrightarrow~\)\(\frac{3}{2}\)は求める値域(の点の1つ)である」

\(\frac{1}{2}\)に対応する\(x\)は?
\(-\frac{1}{2}\)です.\(-\frac{1}{2}\)は定義域の点ではないので,値域の点ではありません.すなわち,
「\(\frac{1}{2}\)に対応する\(x\)が定義域に存在しない\(~\Longleftrightarrow~\)\(\frac{1}{2}\)は求める値域(の点の1つ)ではない」
\(\hspace{80mm}\vdots\)

と調べていけば,徐々に欲しい値域らしきものが求まっていくことが想像できると思います.
しかし,「数を頭に思い浮かべて~」とは言うものの思い浮かべ得る点は当然ながら無限です.その無限の数に対し上の考察を無限回行うわけにはいきません.そこでどうするか?文字を使いましょう.頭に思い浮かべ得る数の代表の文字として\(k\)を用います.そして上と同様の同値変形を行います.すなわち,
\[\text{\(k\)は求める値域(の点の1つ)である\(~\Longleftrightarrow~\)\(k\)に対応する\(x\)が定義域内に存在する}\]
さらに同値変形を続けて,
\[
\begin{align*}
&\text{\(k\)は求める値域(の点の1つ)である}\\
\Longleftrightarrow~&\text{\(k\)に対応する\(x\)が定義域に存在する}\\
\Longleftrightarrow~&\text{\(k=x+1\)をみたす\(x\)が定義域に存在する}\\
\Longleftrightarrow~&\text{\(x=k-1\)をみたす\(x\)が定義域に存在する}\\
\Longleftrightarrow~&\text{\(x=k-1,~0 \leq x \leq 1\)をみたす\(x\)が存在する}\\
\Longleftrightarrow~&0 \leq k-1 \leq 1\\
\Longleftrightarrow~&1 \leq k \leq 2
\end{align*}
\]
よって求める値域が\(1 \leq k \leq 2\)と求まります.

今回は簡単な値域の問題でしたので,「こんな面倒なことするくらいなら(解法1)のほうがいいだろ」と思うかもしれません.が,この考え方は値域の問題ばかりではなく,軌跡や領域の問題において根幹となる重要な考え方になります.

以上の解法(考え方)「存在条件に同値変形して処理」するこの手法を,雑誌「大学への数学」では「逆手流」と名付けています.記事のタイトルはこの名称を使わせて頂きました.

また,上の論理式において「\(k\)は求める値域(の点の1つ)である」を「\(k\in \text{値域}\)」と表し,さらに全称記号と存在記号を用いて記述すると以下のようになります.

\[
\begin{align*}
&k \in \text{値域}\\
\Longleftrightarrow~&\exists x \big[\text{\(k\)に対応する\(x\)が定義域上}\big]\\
\Longleftrightarrow~&\exists x \big[\text{\(k=x+1\)をみたす\(x\)が定義域上}\big]\\
\Longleftrightarrow~&\exists x \big[\text{\(x=k-1\)をみたす\(x\)が定義域上}\big]\\
\Longleftrightarrow~&\exists x \big[\text{\(x=k-1 \land ~0 \leq x \leq 1\)}\big]\\
\Longleftrightarrow~&0 \leq k-1 \leq 1\\
\Longleftrightarrow~&1 \leq k \leq 2
\end{align*}
\]

定積分の再定義

(高校生へ注意)この記事を読む際は,教科書の定積分の定義は忘れて読んで下さい.一旦無の状態に戻るのが理解のポイントです.

私たちは四角形の面積なら求められます.タテ\(\times\)ヨコ.さらにここから,三角形の面積やら台形の面積やらをも求められることになります.では,下のような曲線を含む図形Aの面積はどうやって求めればいいのでしょうか.というか,何を指して曲線を含む図形Aの「面積」とすればいいのでしょうか?

下図のような\(x\)軸,\(y=f(x)\),\(x=a\),\(x=b\)状況を仮定した上で,次のように考えてみます:

まず,図形を分割します.何個に分割してもいいのですが,ここでは\(n\)個に分割(等分でなくともよい)することにします.\[a=x_0<x_1<x_2<x_3<\cdots<x_{n-1}<x_{n}=b\]という分割です.

次に,これら\(n\)個の図形を,長方形に近似します.区間\([x_{i-1},~x_{i}]\)において「高さ」をとる\(x\)を\(\xi_i\)とします.区間\([x_{i-1},~x_{i}]\)上のどの点\(x\)を\(\xi_i\)とするかは任意です(ちなみに\(\xi\)はギリシャ文字で「グザイ」「クシー」などと読みます).

これらの長方形の面積を求めます.例えば左から\(i\)番目の長方形の面積なら,横幅は\(x_{i}-x_{i-1}\)です.高さは\(f(\xi_i)\)です.したがって左から\(i\)番目の長方形の面積は
\[f(\xi_i)(x_{i+1}-x_i)\]
と書けます.さらに,\(x_{i+1}-x_i=\Delta x_i\)とおけば,
\[f(\xi_i)\Delta x_i\]
と書けます.これを\(n\)個寄せ集めるのですから,敷き詰めた長方形の面積の和は
\[\sum^{n}_{i=0}f(\xi_i)\Delta x_i\]
と表されることになります.これをリーマン和と呼びます.

この「リーマン和」をもってして図形Aの「面積」とするのはどうでしょうか?…それはちょっとマズイ気がします.なぜなら,図形Aとリーマン和とではスキマ(誤差)が大きすぎますから(下図参照).

どうすればスキマ(誤差)は小さくなるでしょうか?各長方形の幅を小さくすれば,細長い長方形になって,スキマは小さくなります.当然,スキマは小さければ小さいほど,今私たちにとって欲しいものが正確に求まりそうな気がします.各長方形の幅を小さくするには,\(n\)を大きく,すなわち分割の数を大きくしてやればいいでしょう.


式で表すと,
\[\lim_{n\rightarrow \infty}\sum^{n}_{i=0}f(\xi_i)\Delta x_i\]
これなら,図形の「面積」と呼んでも差し支えなさそうです.そこで,この極限値を図形Aの「面積」と定義し,「定積分」と名付け,記号\[\int^b_a f(x)dx\]で表すことにします.

定積分の定義\[\int^b_a f(x)dx:=\lim_{n\rightarrow \infty}\sum^{n}_{i=0}f(\xi_i)\Delta x_i\]

\(:=\)は「左辺を右辺で定義する」という意味です.

以上を見ると,\(\displaystyle \int^b_a f(x)dx\)の\(\displaystyle \int\)や\(dx\)の「イメージ」が見えてきます.右図に示すように,\(\displaystyle \sum\)が\(\displaystyle \int\)に,\(\Delta x_i\)が\(dx\)と対応しているわけです.

 

ここで,\(\displaystyle \sum\ f(\xi_i)\Delta x_i\)の意味を思い出しましょう.\(f(\xi_i)\)が「タテ」,\(\Delta x_i\)が「ヨコ」を表すのでしたから,\(f(\xi_i)\times\Delta x_i\)は「長方形の面積」を意味し,その長方形の面積\(f(\xi_i)\Delta x_i\)を\(\displaystyle \sum\)する(足し加える),という意味でした.

以上を踏まえて\(\displaystyle \int^b_a f(x)dx\)を眺めると,これは「微小面積\(f(x)\times dx\)を\(\displaystyle \int\)したもの(連続的に足し加えたもの)」と読み取れることが分かります!

定積分を「リーマン和の極限」とみなす捉え方は,とても自然で,記号の導入も全く違和感がありません.さらに,右図に示した記号の解釈は,定積分の問題を扱う上で極めて重要な解釈になります.

次回はこの定積分の定義に従って図形の面積を計算してみます.すると,大きな問題に直面します….

定積分の話(定積分の定義と定積分で面積が求まる理由)

高校教科書では,定積分を次のように定義しています.

定積分の定義(高校教科書ver.)
\(f(x)\)の原始関数の1つを\(F(x)\)とする.
\[\int^b_af(x)dx:=F(b)-F(a)\]

そして,数学Ⅱまたは数学Ⅲで積分を既習の人はこの定積分を計算することによって「面積が求まる」ということも知っていると思います.

しかし,ここでひとつ疑問.なぜ定積分で面積が求まるのでしょうか?定積分の定義は上に示したようにあくまで「原始関数の差を『定積分』と呼ぶことにしましょう」と言っているに過ぎず,「面積」云々には一切触れていません.つまり(定積分の「定義」から)「面積が求まる」ということが「定理」として得られるはずですが,その理由はどこにあるのでしょうか?その辺を理解しないままにただただ計算している人も多いのではないでしょうか.

調べてみましょう.

今,\(y=f(x),~x\leq k,~y=0\)で示される部分の面積を\(S(k)\)と表すことにします.


すると,\(y=f(x),~x=x_1,~x=x_2,~y=0\)で囲まれる部分の面積は,\[S(x_2)-S(x_1)\]で表されることになります.


この斜線部分の面積を評価することを考えます.斜線部分の面積\(S(x_2)-S(x_1)\)は,区間\([x_1,~x_2]\)の幅\(x_2-x_1\)を「ヨコ」,区間\([x_1,~x_2]\)で一番大きい\(y\)の値\(f(x_{max})\)を「タテ」としたときの長方形の面積\((x_2-x_1)f(x_{max})\)より小さく,区間\([x_1,~x_2]\)の幅\(x_2-x_1\)を「ヨコ」,区間\([x_1,~x_2]\)で一番小さい\(y\)の値\(f(x_{min})\)を「タテ」としたときの長方形の面積\((x_2-x_1)f(x_{min})\)よりも大きいと言えます(下図参照.一番大きい,または小さい\(y\)の値を取るときの\(x\)をそれぞれ\(x_{max},~x_{min}\)とおきました).

したがって,以下の不等式が成り立ちます.
\[(x_2-x_1)f(x_{min})\leq S(x_2)-S(x_1)\leq (x_2-x_1)f(x_{max})\]
さらに,辺々を\(x_2-x_1\)で割ることで,
\[f(x_{min})\leq \frac{S(x_2)-S(x_1)}{x_2-x_1}\leq f(x_{max})\]
が得られます.

ここで,\(x_2\)を\(x_1\)に近づけてみます.すなわち,
\[\lim_{x_2\rightarrow x_1}f(x_{min})\leq \lim_{x_2\rightarrow x_1}\frac{S(x_2)-S(x_1)}{x_2-x_1}\leq \lim_{x_2\rightarrow x_1}f(x_{max})\]
まず中辺ですが,これは導関数の定義から\[S'(x_1)\]と書けます.

次に左辺と右辺について.\(x_2\)を\(x_1\)に近づけるというのは,区間\([x_1,x_2]\)の幅を縮めるということですから,図から\(f(x_{max}),~f(x_{min})\)はどちらも\(f(x_1)\)に近づくことが分かります(下図参照).

すなわち,
\[\lim_{x_2\rightarrow x_1}f(x_{max})=\lim_{x_2\rightarrow x_1}f(x_{max})=f(x_1)\]

したがって,はさみうちの原理から
\[S'(x_1)=f(x_1)\]
が得られますが,この式は
\[S(x_1)=\text{\(f(x_1)\)の原始関数}\]
であることを示しています.添え字がちょっとうるさいので\(x_1\)を\(x\)に置き換えておきます.
\[S(x)=\text{\(f(x)\)の原始関数}\]
準備は整いました.定積分の定義\(\displaystyle \int^b_a f(x)dx=F(b)-F(a)\)を変形してみます.
\[
\begin{align}
\int^b_a f(x)dx=&F(b)-F(a)\\
=&\text{\(f(x)\)の原始関数}|_{x=b}-\text{\(f(x)\)の原始関数}|_{x=a}\tag{1}\\
=&S(x)|_{x=b}-S(x)|_{x=a}\tag{2}\\
=&S(b)-S(a)
\end{align}
\]
\((1)\)は定義の仮定:「\(F(x)=\text{\(f(x)\)の原始関数}\)」から,
\((2)\)は先に導いた式:「\(S(x)=\text{\(f(x)\)の原始関数}\)」によるものです.

結局,
\[\int^b_a f(x)dx=S(b)-S(a)\]
が得られますが,\(S(b)-S(a)\)は\(y=f(x),~x=a,~x=b,~y=0\)で囲まれた面積を表しますから,定積分すなわち原始関数の差は確かに面積を表すことが確認でしました.

以上により定積分で面積が求められることが一応納得はできました.しかしながら,この「納得」は上でみたように複雑で,お世辞にも「直観的」とは言えません.一般に求積問題は図形が絡むので視覚情報から解法に繋げていくことが多いのですが,その視覚情報を数式に落とし込むにはある種の「直観的」な理解が必要になってきます.教科書の定義のままでは直観的な理解が伴わないゆえに求積問題等ではうまく発想・立式ができず,ほとんど使い物になりません.数学が得意な人,これから得意にしたい人,あるいは将来的に数学を使う学部学科に進みたい人は違う角度で定積分というものを捉える(理解する)べきです.

次回,「定積分」を教科書とは違う角度から(リーマン和の極限として)再定義し,今度は逆に「定積分が原始関数の差である」ことを定理として導いてみようと思います.すなわち,教科書が「定積分とは原始関数の差である(定義)→定積分は面積である(定理)」という流れであったのに対し,逆に「定積分はリーマン和の極限(=面積)である(定義)→定積分は原始関数の差である(定理)」という流れで定積分というものを捉え直します.この考え方自体がとりもなおさず受験数学における求積問題の肝にもなります.

ベータ関数と\(\frac{(\beta-\alpha)^3}{6}\)公式

天下りですが以下のような\(2\)変数関数\(B(p,~q)\)を定義します.

ベータ関数\[\displaystyle B(p,~q):=\int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\]

(「\(:=\)」は「左辺を右辺で定義する」という意味です.)
この関数をベータ関数と呼びます.こいつを計算してみましょう.

直接的に求まりそうにないので,部分積分してみます(\(x^{p-1}\)を積分側,\((1-x)^{q-1}\)を微分側にしましょう).すると,

\[\displaystyle
\begin{align*}
&\int^1_0 x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\\
=&\biggl[\frac{x^p}{p}(1-x)^{q-1}\biggl]^1_0+\int^1_0\frac{x^p}{p}(q-1)(1-x)^{q-2}dx\\
=&\frac{q-1}{p}\int^1_0x^p(1-x)^{q-2}dx\\
=&\frac{q-1}{p}B(p+1,~q-1)
\end{align*}
\]
より,
\[B(p,~q)=\frac{q-1}{p}B(p+1,~q-1)\]という漸化式を得ます.この漸化式から,
\[
\begin{align*}
&B(p,~q)=\frac{q-1}{p}B(p+1,~q-1)\\
&B(p+1,~q-1)=\frac{q-2}{p+1}B(p+2,~q-2)\\
&B(p+2,~q-2)=\frac{q-3}{p+2}B(p+3,~q-3)\\
&B(p+3,~q-3)=\frac{q-4}{p+3}B(p+4,~q-4)\\
&\hspace{40mm}\vdots
\end{align*}
\]

が得られますが,例えば上の四つの式から,

\[B(p,~q)=\frac{q-1}{p}\frac{q-2}{p+1}\frac{q-3}{p+2}\frac{q-4}{p+3}B(p+4,~q-4)\]

が得られますので,この調子で続ければ\(B(\text{☆},\text{★})\)の\(\text{★}\)がどんどん小さくなり,うまく計算が出来そうです.

では,★はどこまで下げましょうか?\(B(\text{☆},\text{★})\)の定義をみると,★は1であると計算しやすいですね.なぜなら\((1-x)^{q-1}\)が\(0\)乗で1になってくれますから.

\(B(\text{☆},\text{★})\)の\(\text{★}\)が1になるまで下げてみます.

\[
\begin{align*}
&B(p,~q)=\frac{q-1}{p}B(p+1,~q-1)\\
&B(p+1,~q-1)=\frac{q-2}{p+1}B(p+2,~q-2)\\
&B(p+2,~q-2)=\frac{q-3}{p+2}B(p+3,~q-3)\\
&B(p+3,~q-3)=\frac{q-4}{p+3}B(p+4,~q-4)\\
&\hspace{40mm}\vdots\\
&B(p+(q-2),~q-(q-2))=\frac{q-(q-1)}{p+(q-2)}B(p+(q-1),~q-(q-1))
\end{align*}
\]
(4行目の\(\displaystyle B(p+3,~q-3)=\frac{q-4}{p+3}B(p+4,~q-4)\)の「\(4\)」を「\(q-1\)」に,「\(3\)」を「\(q-2\)」に置き換えるイメージ!)

したがって,

\[
\begin{align*}
B(p,~q)&=\frac{q-1}{p}\frac{q-2}{p+1}\frac{q-3}{p+2}\frac{q-4}{p+3}~\cdots~\frac{q-(q-1)}{p+(q-2)}B(p+(q-1),~q-(q-1)\\
&=\frac{q-1}{p}\frac{q-2}{p+1}\frac{q-3}{p+2}\frac{q-4}{p+3}~\cdots~\frac{1}{p+q-2}B(p+q-1,~1)\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-2)!}B(p+q-1,~1)\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-2)!}\int^1_0x^{p+q-2}(1-x)^0dx\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-2)!}\int^1_0x^{p+q-2}dx\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-2)!}\biggl[\frac{x^{p+q-1}}{p+q-1}\bigg]^1_0\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}
\end{align*}
\]

できました.\(\displaystyle B(p,~q)=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}\).定義より\(\displaystyle B(p,~q)=\int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\)でしたから,結局,

\[\displaystyle \int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}\]

が得られたことになります.

さて次に,\(\displaystyle \int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\)の積分区間\([0,~1]\)が,\([\alpha,~\beta]\)となるような置換を考えてみましょう.すなわち右のような置換です(新たな変数\(t\)としました).この場合,どのように置換すればよいでしょうか?\(t\)が\(\alpha\)のとき\(x\)が\(0\)ですから,さしあたり\[x=t-\alpha\]という置換が思い浮かびます.しかし,\(t=\beta\)のとき\(x\)は\(\beta-\alpha\)ではなく\(1\)であってほしい.であれば,\(t-\alpha\)を\(\beta-\alpha\)で割ればいいのでは?と考え,\[\displaystyle x=\frac{t-\alpha}{\beta-\alpha}\]という置換に気付きます.置換してみましょう.\(\displaystyle dx=\frac{1}{\beta-\alpha}dt\)ですから,

\[
\begin{align*}
\displaystyle \int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx&=\int^{\beta}_{\alpha}\left(\frac{t-\alpha}{\beta-\alpha}\right)^{p-1}\left(1-\frac{t-\alpha}{\beta-\alpha}\right)^{q-1}\frac{1}{\beta-\alpha}dt\\
&=\frac{1}{(\beta-\alpha)^{p+q-1}}\int^{\beta}_{\alpha}(t-\alpha)^{p-1}(\beta-t)^{q-1}dt
\end{align*}
\]

ゆえに,

\[\displaystyle \frac{1}{(\beta-\alpha)^{p+q-1}}\int^{\beta}_{\alpha}(x-\alpha)^{p-1}(\beta-x)^{q-1}dx=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}\]

すなわち,

\[\displaystyle \int^{\beta}_{\alpha}(x-\alpha)^{p-1}(\beta-x)^{q-1}dx=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}(\beta-\alpha)^{p+q-1}\]

が得られたことになります(ダミー変数を\(t\)から見慣れた\(x\)に変えました).

…で,結局何がいいたいの??というと…

この式の\((p,~q)\)に例えば\((2,~2),~(2,~3)\)と代入してみてください.前者は
\[\displaystyle \int^{\beta}_{\alpha}(x-\alpha)(\beta-x)dx=\frac{1}{6}(\beta-\alpha)^3\]

後者は
\[\displaystyle \int^{\beta}_{\alpha}(x-\alpha)(\beta-x)^2dx=\frac{1}{12}(\beta-\alpha)^4\]
となり,例の有名公式が得られます.つまり,数学Ⅱで学ぶ例の有名公式は,実はベータ関数の特殊な場合でもあった,ということがわかります.

このベータ関数は大学の微分積分学で学ぶかと思いますが,実は今回のこの記事の内容自体が大学入試問題として出題されたこともあります.実際,上の解説を見て分かるように導出には部分積分,漸化式,置換積分と高校数学範囲の知識しか使っていません.

点と直線の距離の公式の証明

点と直線の距離の公式を証明してみましょう.

直線\(l:ax+by+c=0\)と,この直線上にない点を\(\mathrm{P}(x_0,~y_0)\),そして下図に示す直線\(l\)上の点を\(\mathrm{A}(p,~q)\)とします.

まず\(l\)の法線ベクトルを求め,図示します.法線ベクトルは\(x\)と\(y\)との係数から\((a,~b)\)でしたね(なぜ?).また,\(\overrightarrow{\mathrm{AP}}\)を図示しておきます.(下図では\((a,~b)\)を列ベクトルで表記しています.)

求めたいものも図示しておきましょう.それは,

上図の赤い線分\(\mathrm{AH}(=|\overrightarrow{\mathrm{AH}}|)\)ですね.

気づいたでしょうか?これはほかならぬ正射影ベクトル(の大きさ)です.ですから結局,「点と直線の距離は,正射影ベクトルを求めて,その大きさを求めればよい」と分かります.

ここで正射影ベクトルの公式の出番です!

正射影ベクトルを求めるために,ベクトル\((a,~b)\)を正規化(大きさを1にすること)しておきましょう:
\[\frac{1}{\sqrt{a^2+b^2}}
\left(\begin{array}{c}
a \\
b \\
\end{array}\right)
\]
このベクトルを\(\overrightarrow{n}\)とおきます.すると,正射影ベクトルの公式から,\(\overrightarrow{\mathrm{AH}}\)は\[(\overrightarrow{\mathrm{AP}}\cdot\overrightarrow{n})\overrightarrow{n}\]と書けますね.\[\overrightarrow{\mathrm{AP}}=\left(\begin{array}{c} x_0\\ y_0\end{array}\right)-\left(\begin{array}{c} p\\ q\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c} x_0-p\\ y_0-q\end{array}\right)
\]
ですから,計算すると
\[
\begin{align*}
&\overrightarrow{\mathrm{AH}}=(\overrightarrow{\mathrm{AP}}\cdot\overrightarrow{n})\overrightarrow{n}\\
=&\left\{\left(\begin{array}{c} x_0-p\\ y_0-q\end{array}\right)\cdot\frac{1}{\sqrt{a^2+b^2}}
\left(\begin{array}{c}
a \\
b \\
\end{array}\right)\right\}\overrightarrow{n}\\
=&\frac{a(x_0-p)+b(y_0-q)}{\sqrt{a^2+b^2}}\overrightarrow{n}
\end{align*}
\]
\(\mathrm{AH}=|\overrightarrow{\mathrm{AH}}|\)ですから,\(\left| \overrightarrow{n}\right|=1\)であることに注意して,
\[
\begin{align*}
\mathrm{AH}=&|\overrightarrow{\mathrm{AH}}|\\
=&\left|\frac{a(x_0-p)+b(y_0-q)}{\sqrt{a^2+b^2}}\overrightarrow{n}\right|\\
=&\frac{|ax_0+by_0-ap-bq|}{\sqrt{a^2+b^2}}|\overrightarrow{n}|\\
=&\frac{|ax_0+by_0-ap-bq|}{\sqrt{a^2+b^2}}
\end{align*}
\]
ここで,\((p,~q)\)は直線\(l\)上の点でしたから,\[ap+bq+c=0\quad \text{すなわち}\quad c=-ap-bq\]が成り立ちます.したがって,上の式は結局
\[\mathrm{AH}=\frac{|ax_0+by_0+c|}{\sqrt{a^2+b^2}}\]となります.

この証明のいいところは,まず簡潔で記述量(計算量)が少ない(=かっこいい)という点,それにこの公式の三次元バージョンとでもいいますか「点の平面の距離の公式」を導出する際もまったく同じように応用できるという点です.他にも,数学検定1級1次の問題でこのアイデアが使える問題がありました.いずれ紹介したいと思います.

また,この証明を通して「正射影ベクトルの公式」の使いどころも感じて貰えたかと思います.

今回はとりあえずここまでにして,「点と平面の距離の公式」も後ほど記事にしてみたいと思います.

係数比較法と数値代入法

等式
\[a(x+1)(x-1)+bx(x+1)+cx(x-1)=3x-1\]
が\(a\)についての恒等式となるように,定数\(a,~b,~c\)の値を求めよ.

(東京書籍 数学Ⅱ「式と証明」より抜粋)

この定番問題には2つのアプローチがあります。係数比較法と数値代入法です。教科書等の解答を見ると,「数値代入法」では「逆に~」という記述がある一方,「係数比較法」ではその種の記述は見当たりません。なぜか?これを論理式を用いて考察してみます。

(係数比較法)
\[
\begin{align*}
&a(x+1)(x-1)+bx(x+1)+cx(x-1)=3x-1\text{が恒等式}\\
\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}~&\forall x\in \mathbb{R}[a(x+1)(x-1)+bx(x+1)+cx(x-1)=3x-1]\\
\Longleftrightarrow~& \forall x\in \mathbb{R}[(a+b+c)x^2+(b-c-3)x-a+1=0]\\
\overset{(\ast)}{\Longleftrightarrow}~& a+b+c=0 \land b-c-3=0 \land -a+1=0\\
\Longleftrightarrow~& a=1 \land b=1 \land c=-2\\
\end{align*}
\]

どの行を眺めても,恒等式の定義(どんな\(x\)についても式が成り立つ)と単純な計算による変形なので同値性は崩しておらず,問題ありません。
強いて言えば\((\ast)\)の\(\Rightarrow\)でしょうか。気になるのは。念のため証明してみます:

\((\ast)\)の\(\Rightarrow\)の証明

背理法で考える.
\begin{align*}
&\neg (\forall x\in \mathbb{R}[(a+b+c)x^2+(b-c-3)x-a+1=0]\\
&\Rightarrow a+b+c=0 \land b-c-3=0 \land -a+1=0)\\
\Longleftrightarrow~&\forall x\in \mathbb{R}[(a+b+c)x^2+(b-c-3)x-a+1=0]\\
&\land (a+b+c\neq 0 \lor b-c-3\neq 0 \lor -a+1\neq 0)\\
\end{align*}
すると\((a+b+c)x^2+(b-c-3)x-a+1=0\)の左辺は\(2\)次関数または\(1\)次関数または定数関数(ただし\(0\)でない)となるが,いずれにしてもすべての\(x\)で\(0\)と等しくなることなく,矛盾する.

証明終

次に数値代入法で考えてみます。

(数値代入法)

与式を\(f(x)=g(x)\)とおきます。

\[
\begin{align*}
&a(x+1)(x-1)+bx(x+1)+cx(x-1)=3x-1\text{が恒等式}\\
\Longleftrightarrow~&\forall x\in \mathbb{R}[f(x)=g(x)]\\
\overset{(\ast)}{\Longrightarrow}~& f(-1)=g(-1) \land f(0)=g(0) \land f(1)=g(1)\\
\Longleftrightarrow~& a+b+c=0 \land b-c-3=0 \land -a+1=0\\
\Longleftrightarrow~& a=1 \land b=1 \land c=-2\\
\end{align*}
\]

\((\ast)\)で同値性を崩しているので,逆(十分性)を確認する.すなわち,\[a=1 \land b=1 \land c=-2~\Longrightarrow \forall x\in \mathbb{R}[f(x)=g(x)]\]を確認しなくてはなりません:

\(a=1 \land b=1 \land c=-2\)のとき,\(f(x)=g(x)\)は,

\[
\begin{align*}
&f(x)=g(x)\\
\Longleftrightarrow~&(x+1)(x-1)+x(x+1)-2x(x-1)=3x-1\\
\Longleftrightarrow~& x^2-1+x^2+x-2x^2+2x=3x-1\\
\Longleftrightarrow~& 3x-1=3x-1\\
\end{align*}
\]

と変形でききますが,これは明らかにすべての\(x\)で成り立ちます。したがって恒等式です。十分性が確認できたので,\(a=1, b=1 , c=-2\)は必要十分条件であることが確認できました。

「『どんな\(x\)でも成り立つ』のなら都合のいい\(x\)を代入してやれ~」の精神で\(-1,~0,~1\)を代入するわけですが,そうして得られた命題はあくまで「\(-1,~0,~1\)という\(x\)で\(f(x)=g(x)\)成り立つ」ことを主張しており,「すべての\(x\)で\(f(x)=g(x)\)が成り立つ(\(f(x)=g(x)\)が恒等式である)」ことを主張してはいません。つまり必要条件にしか過ぎない。だから,逆の調査が必要なのです。以前紹介した\[P_1\Longrightarrow P_2\Longrightarrow P_3\Longrightarrow\cdots \Longrightarrow P_n\]と変形してから,\[P_1\Longleftarrow P_n\](十分性)を確認する,という考え方ですね。

これは教科書の問題ですが,こういった教科書例題レベルの問題にはこういった論理が潜んでいます。学び始めは,テスト等で点数を取るために「とりあえず展開して係数を比較すればいい!」と「解法」を記憶することで一杯一杯だと思いますが,このような背景にも目を向けておくこともまた大切だと思います。

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