ビュッフォンの針の問題

\(2h\)の間隔で無数の平行線が引いてある平面に,長さ\(2l\)の針を1本無作為に落とすとき,この針が平行線と交わる確率\(p\)を求めよ.ただし,\(l<h\)とする.

「ビュッフォンの針問題」と呼ばれる問題です.確率の問題なのに\(\pi\)が出てくるのでなんか不思議だよねーみたいな文脈で語られることが多いと思います.今回はこの確率を実際に求めてみます.

まず,「針が交わるか交わらないか」がどんな要素に依存するかを考えてみます.それは単純に,針がどこに落ちたか,そして,落ちた針がどんな角度で横たわっているか,という2つの要素であることは容易に予測できます.

ここで,前者「針がどこに落ちたか」について少し掘り下げて考えてみましょう.「どこに」というのはいわゆる位置情報ですから,縦・横という情報を含みます.「縦方向においてどの位置にいて・横方向においてどの位置にいるか」ということですね.しかし,この問題においては横方向においてどこにいるかによって針が交わるか交わらないかというその事実が変わることはありません.

したがって「針がどこに落ちたか」に関しては縦方向のみを考えればよいことになります.

「針がどこに落ちたか(縦方向)」と「落ちた針がどんな角度で横たわっているか」をそれぞれ文字で表すことにします.

まず,「針がどこに落ちたか(縦方向)」:針の中心から,最寄りの平行線までの距離を\(d\)とします.

今,「最寄りの」と定義したので,この\(d\)は\(0\leq d \leq h\)です.

次に「落ちた針がどんな角度で横たわっているか」:最寄りの平行線と針のなす角を\(\theta\)とおきます.\(0\leq \theta \leq \pi\)です.

以上の準備の下に,「針が平行線と交わる」ことを数式に翻訳しましょう.図を用いて考えてみます.

このようにみると,どうやら\[d\leq l\sin\theta\]のとき針が交わることが分かります.

次に確率を求めます.

ここで,前述したように「針が平行線と交わるか交わらないか」は(平行線との縦方向の)距離\(d\)と角度\(\theta\)に依存するのでした.この二つの要素が問題なのですから,以下のような横軸が\(\theta\),縦軸が\(d\)であるような座標系を考えます.


この座標系における点のひとつひとつが,落ちた針の状況を表しています.例えば\(\left(\frac{\pi}{4},~\frac{h}{8}\right)\)なら,「最寄りの平行線からの距離が\(\frac{h}{8}\)で,その直線とのなす角が\(\frac{\pi}{4}\)」,例えば\(\left(\frac{5}{6}\pi,~\frac{3}{4}h\right)\)なら,「最寄りの平行線からの距離が\(\frac{3}{4}h\)で,その直線とのなす角が\(\frac{5}{6}\pi\)」のように.


まず,針と平行線が交わるような点\((\theta,~d)\)たちを求めてみましょう.上で見たように「針と平行線が交わるような点\((\theta,~d)\)」とは,「\(d \leq l\sin\theta\)をみたす\((\theta,~d)\)」です.図示すると,下図の赤い点たちですね(イメージ).

です.この赤い部分の面積を求めると,

\[\displaystyle \int^{\pi}_0 l\sin\theta d\theta=l\Bigl[-\cos\theta\Bigl]^{\pi}_0=2l\quad\cdots(1)\]

となります.

他方,起こり得るすべての点\((\theta,~d)\)たちはどんな点たちでしょうか.今,\(\theta\)軸が\(0\leq \theta \leq \pi\),\(d\)軸が\(0\leq d \leq h\)ですから,起こり得るすべての点の集合は以下のような図になります(イメージ).

この部分の面積は\[h\times \pi=\pi h\quad\cdots(2)\]です.

以上より,題意の確率は,\((2)\)の面積を分母とし,\((1)\)の面積を分子として割合を作り,

\[\frac{\text{(1)の面積}}{\text{(2)の面積}}=\frac{2l}{\pi h}\]

となります.

以前,生徒に聞いたのですが,とあるクイズ番組で東大生がこの問題を問われた瞬間に結果を即答したそうです^^;結果を覚えていたのか,それとも・・・?

極限の有名問題

数学Ⅲ極限の有名問題の論理的側面について考えてみます.

次の等式が成り立つように,定数\(a,~b\)の値を求めよ.\[\lim_{x\rightarrow 1}\frac{a\sqrt{x}+b}{x-1}=2\]

(数研出版 数学Ⅲ「関数の極限」より抜粋)

\(x\rightarrow1\)とすると,左辺は\(\frac{a+b}{0}\)となり,もし\(a+b\neq 0\)とすると左辺は発散してしまいますが,この式は「左辺の極限は2に限りなく近づく(収束する)」ということを主張した式ですから矛盾してします.したがって,\(a+b=0\)であることが必要です(必要条件).そして\(b=-a\)を元の式に代入して極限計算すると・・・というおなじみの問題です.

ここでふとギモン.必要条件なのに教科書の解答では逆の考察をしていません.必要条件は逆の考察をしなければならないんじゃなかったの・・・??

これはどういうことか,論理式を用いて考察してみます.

【解答】
\begin{align*}
&\lim_{x\rightarrow 1}\frac{a\sqrt{x}+b}{x-1}=2\\
\Longleftrightarrow&\lim_{x\rightarrow 1}\frac{a\sqrt{x}+b}{x-1}=2 \land a+b=0 \quad\cdots(\ast)\\
\Longleftrightarrow&\lim_{x\rightarrow 1}\frac{a\sqrt{x}-a}{x-1}=2 \land b=-a\\
\Longleftrightarrow&\lim_{x\rightarrow 1}\frac{a(\sqrt{x}-1)}{(\sqrt{x}-1)(\sqrt{x}+1)}=2 \land b=-a\\
\Longleftrightarrow&\lim_{x\rightarrow 1}\frac{a}{\sqrt{x}+1}=2 \land b=-a\\
\Longleftrightarrow&\frac{a}{2}=2 \land b=-a\\
\Longleftrightarrow&a=4 \land b=-a\\
\Longleftrightarrow&a=4 \land b=-4\\
\end{align*}
【解答終】

模式的にかくと,\(P_1\Longrightarrow P_2\)のとき,\[P_1\Longleftrightarrow P_1\land P_2\]という同値関係が成り立つから(上の\((\ast)\))逆の考察をしなくてもいいのです.

\(a=4,~b=-4\)と答えるだけなら,上記の話は全く必要のない知識でしょう.これで正答ですし.しかし,他の記事でも書いたように,分野を超えて,それも教科書レベルの問題にすら論理の話題は潜んでいるということに注目すべきです.もっとも,数学は論理によって記述されるわけですから,当然と言えば当然ですが・・・.このような背景を理解しておくことは受験だけでなくその後の数学学習に大いに役立つと思います(例えば,数学系大学1年生を苦しめるかの悪名高き\(\epsilon\delta\)論法も,結局,高校のカリキュラムに述語論理が含まれていないがためだと個人的に思います).

ちなみに,このような\(\land,~\lor,~\Rightarrow,~\lnot\)(論理積,論理和,含意,否定)といった論理記号は,教科書では主に「ベン図」により理解したと思います.しかし正確には「真理値表」という表によって定義されます.上で言った「\(P_1\Longrightarrow P_2\)のとき,\(P_1\Longleftrightarrow P_1\land P_2\)が成り立つ」という事実も,真理値表により確かめられます.

© 2025 佐々木数学塾, All rights reserved.