定積分の再定義

(高校生へ注意)この記事を読む際は,教科書の定積分の定義は忘れて読んで下さい.一旦無の状態に戻るのが理解のポイントです.

私たちは四角形の面積なら求められます.タテ\(\times\)ヨコ.さらにここから,三角形の面積やら台形の面積やらをも求められることになります.では,下のような曲線を含む図形Aの面積はどうやって求めればいいのでしょうか.というか,何を指して曲線を含む図形Aの「面積」とすればいいのでしょうか?

下図のような\(x\)軸,\(y=f(x)\),\(x=a\),\(x=b\)状況を仮定した上で,次のように考えてみます:

まず,図形を分割します.何個に分割してもいいのですが,ここでは\(n\)個に分割(等分でなくともよい)することにします.\[a=x_0<x_1<x_2<x_3<\cdots<x_{n-1}<x_{n}=b\]という分割です.

次に,これら\(n\)個の図形を,長方形に近似します.区間\([x_{i-1},~x_{i}]\)において「高さ」をとる\(x\)を\(\xi_i\)とします.区間\([x_{i-1},~x_{i}]\)上のどの点\(x\)を\(\xi_i\)とするかは任意です(ちなみに\(\xi\)はギリシャ文字で「グザイ」「クシー」などと読みます).

これらの長方形の面積を求めます.例えば左から\(i\)番目の長方形の面積なら,横幅は\(x_{i}-x_{i-1}\)です.高さは\(f(\xi_i)\)です.したがって左から\(i\)番目の長方形の面積は
\[f(\xi_i)(x_{i+1}-x_i)\]
と書けます.さらに,\(x_{i+1}-x_i=\Delta x_i\)とおけば,
\[f(\xi_i)\Delta x_i\]
と書けます.これを\(n\)個寄せ集めるのですから,敷き詰めた長方形の面積の和は
\[\sum^{n}_{i=0}f(\xi_i)\Delta x_i\]
と表されることになります.これをリーマン和と呼びます.

この「リーマン和」をもってして図形Aの「面積」とするのはどうでしょうか?…それはちょっとマズイ気がします.なぜなら,図形Aとリーマン和とではスキマ(誤差)が大きすぎますから(下図参照).

どうすればスキマ(誤差)は小さくなるでしょうか?各長方形の幅を小さくすれば,細長い長方形になって,スキマは小さくなります.当然,スキマは小さければ小さいほど,今私たちにとって欲しいものが正確に求まりそうな気がします.各長方形の幅を小さくするには,\(n\)を大きく,すなわち分割の数を大きくしてやればいいでしょう.


式で表すと,
\[\lim_{n\rightarrow \infty}\sum^{n}_{i=0}f(\xi_i)\Delta x_i\]
これなら,図形の「面積」と呼んでも差し支えなさそうです.そこで,この極限値を図形Aの「面積」と定義し,「定積分」と名付け,記号\[\int^b_a f(x)dx\]で表すことにします.

定積分の定義\[\int^b_a f(x)dx:=\lim_{n\rightarrow \infty}\sum^{n}_{i=0}f(\xi_i)\Delta x_i\]

\(:=\)は「左辺を右辺で定義する」という意味です.

以上を見ると,\(\displaystyle \int^b_a f(x)dx\)の\(\displaystyle \int\)や\(dx\)の「イメージ」が見えてきます.右図に示すように,\(\displaystyle \sum\)が\(\displaystyle \int\)に,\(\Delta x_i\)が\(dx\)と対応しているわけです.

 

ここで,\(\displaystyle \sum\ f(\xi_i)\Delta x_i\)の意味を思い出しましょう.\(f(\xi_i)\)が「タテ」,\(\Delta x_i\)が「ヨコ」を表すのでしたから,\(f(\xi_i)\times\Delta x_i\)は「長方形の面積」を意味し,その長方形の面積\(f(\xi_i)\Delta x_i\)を\(\displaystyle \sum\)する(足し加える),という意味でした.

以上を踏まえて\(\displaystyle \int^b_a f(x)dx\)を眺めると,これは「微小面積\(f(x)\times dx\)を\(\displaystyle \int\)したもの(連続的に足し加えたもの)」と読み取れることが分かります!

定積分を「リーマン和の極限」とみなす捉え方は,とても自然で,記号の導入も全く違和感がありません.さらに,右図に示した記号の解釈は,定積分の問題を扱う上で極めて重要な解釈になります.

次回はこの定積分の定義に従って図形の面積を計算してみます.すると,大きな問題に直面します….

ベータ関数と\(\frac{(\beta-\alpha)^3}{6}\)公式

天下りですが以下のような\(2\)変数関数\(B(p,~q)\)を定義します.

ベータ関数\[\displaystyle B(p,~q):=\int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\]

(「\(:=\)」は「左辺を右辺で定義する」という意味です.)
この関数をベータ関数と呼びます.こいつを計算してみましょう.

直接的に求まりそうにないので,部分積分してみます(\(x^{p-1}\)を積分側,\((1-x)^{q-1}\)を微分側にしましょう).すると,

\[\displaystyle
\begin{align*}
&\int^1_0 x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\\
=&\biggl[\frac{x^p}{p}(1-x)^{q-1}\biggl]^1_0+\int^1_0\frac{x^p}{p}(q-1)(1-x)^{q-2}dx\\
=&\frac{q-1}{p}\int^1_0x^p(1-x)^{q-2}dx\\
=&\frac{q-1}{p}B(p+1,~q-1)
\end{align*}
\]
より,
\[B(p,~q)=\frac{q-1}{p}B(p+1,~q-1)\]という漸化式を得ます.この漸化式から,
\[
\begin{align*}
&B(p,~q)=\frac{q-1}{p}B(p+1,~q-1)\\
&B(p+1,~q-1)=\frac{q-2}{p+1}B(p+2,~q-2)\\
&B(p+2,~q-2)=\frac{q-3}{p+2}B(p+3,~q-3)\\
&B(p+3,~q-3)=\frac{q-4}{p+3}B(p+4,~q-4)\\
&\hspace{40mm}\vdots
\end{align*}
\]

が得られますが,例えば上の四つの式から,

\[B(p,~q)=\frac{q-1}{p}\frac{q-2}{p+1}\frac{q-3}{p+2}\frac{q-4}{p+3}B(p+4,~q-4)\]

が得られますので,この調子で続ければ\(B(\text{☆},\text{★})\)の\(\text{★}\)がどんどん小さくなり,うまく計算が出来そうです.

では,★はどこまで下げましょうか?\(B(\text{☆},\text{★})\)の定義をみると,★は1であると計算しやすいですね.なぜなら\((1-x)^{q-1}\)が\(0\)乗で1になってくれますから.

\(B(\text{☆},\text{★})\)の\(\text{★}\)が1になるまで下げてみます.

\[
\begin{align*}
&B(p,~q)=\frac{q-1}{p}B(p+1,~q-1)\\
&B(p+1,~q-1)=\frac{q-2}{p+1}B(p+2,~q-2)\\
&B(p+2,~q-2)=\frac{q-3}{p+2}B(p+3,~q-3)\\
&B(p+3,~q-3)=\frac{q-4}{p+3}B(p+4,~q-4)\\
&\hspace{40mm}\vdots\\
&B(p+(q-2),~q-(q-2))=\frac{q-(q-1)}{p+(q-2)}B(p+(q-1),~q-(q-1))
\end{align*}
\]
(4行目の\(\displaystyle B(p+3,~q-3)=\frac{q-4}{p+3}B(p+4,~q-4)\)の「\(4\)」を「\(q-1\)」に,「\(3\)」を「\(q-2\)」に置き換えるイメージ!)

したがって,

\[
\begin{align*}
B(p,~q)&=\frac{q-1}{p}\frac{q-2}{p+1}\frac{q-3}{p+2}\frac{q-4}{p+3}~\cdots~\frac{q-(q-1)}{p+(q-2)}B(p+(q-1),~q-(q-1)\\
&=\frac{q-1}{p}\frac{q-2}{p+1}\frac{q-3}{p+2}\frac{q-4}{p+3}~\cdots~\frac{1}{p+q-2}B(p+q-1,~1)\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-2)!}B(p+q-1,~1)\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-2)!}\int^1_0x^{p+q-2}(1-x)^0dx\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-2)!}\int^1_0x^{p+q-2}dx\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-2)!}\biggl[\frac{x^{p+q-1}}{p+q-1}\bigg]^1_0\\
&=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}
\end{align*}
\]

できました.\(\displaystyle B(p,~q)=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}\).定義より\(\displaystyle B(p,~q)=\int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\)でしたから,結局,

\[\displaystyle \int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}\]

が得られたことになります.

さて次に,\(\displaystyle \int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\)の積分区間\([0,~1]\)が,\([\alpha,~\beta]\)となるような置換を考えてみましょう.すなわち右のような置換です(新たな変数\(t\)としました).この場合,どのように置換すればよいでしょうか?\(t\)が\(\alpha\)のとき\(x\)が\(0\)ですから,さしあたり\[x=t-\alpha\]という置換が思い浮かびます.しかし,\(t=\beta\)のとき\(x\)は\(\beta-\alpha\)ではなく\(1\)であってほしい.であれば,\(t-\alpha\)を\(\beta-\alpha\)で割ればいいのでは?と考え,\[\displaystyle x=\frac{t-\alpha}{\beta-\alpha}\]という置換に気付きます.置換してみましょう.\(\displaystyle dx=\frac{1}{\beta-\alpha}dt\)ですから,

\[
\begin{align*}
\displaystyle \int^1_0x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx&=\int^{\beta}_{\alpha}\left(\frac{t-\alpha}{\beta-\alpha}\right)^{p-1}\left(1-\frac{t-\alpha}{\beta-\alpha}\right)^{q-1}\frac{1}{\beta-\alpha}dt\\
&=\frac{1}{(\beta-\alpha)^{p+q-1}}\int^{\beta}_{\alpha}(t-\alpha)^{p-1}(\beta-t)^{q-1}dt
\end{align*}
\]

ゆえに,

\[\displaystyle \frac{1}{(\beta-\alpha)^{p+q-1}}\int^{\beta}_{\alpha}(x-\alpha)^{p-1}(\beta-x)^{q-1}dx=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}\]

すなわち,

\[\displaystyle \int^{\beta}_{\alpha}(x-\alpha)^{p-1}(\beta-x)^{q-1}dx=\frac{(p-1)!(q-1)!}{(p+q-1)!}(\beta-\alpha)^{p+q-1}\]

が得られたことになります(ダミー変数を\(t\)から見慣れた\(x\)に変えました).

…で,結局何がいいたいの??というと…

この式の\((p,~q)\)に例えば\((2,~2),~(2,~3)\)と代入してみてください.前者は
\[\displaystyle \int^{\beta}_{\alpha}(x-\alpha)(\beta-x)dx=\frac{1}{6}(\beta-\alpha)^3\]

後者は
\[\displaystyle \int^{\beta}_{\alpha}(x-\alpha)(\beta-x)^2dx=\frac{1}{12}(\beta-\alpha)^4\]
となり,例の有名公式が得られます.つまり,数学Ⅱで学ぶ例の有名公式は,実はベータ関数の特殊な場合でもあった,ということがわかります.

このベータ関数は大学の微分積分学で学ぶかと思いますが,実は今回のこの記事の内容自体が大学入試問題として出題されたこともあります.実際,上の解説を見て分かるように導出には部分積分,漸化式,置換積分と高校数学範囲の知識しか使っていません.

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