\[(a_n)_{n \in \mathbb{N}}:\frac{1}{1},~\frac{1}{2},~\frac{1}{3},~\cdots~,\frac{1}{10},~\cdots~,\frac{1}{100},~\cdots~,\frac{1}{1000},~\cdots\]
ですから,\(0\)に限りなく近づくことは直観的には明らか(?)ですが,これをきちんと定義に従って証明してみます.この記事では,その「限りなく近づく」ことの数学的な定義とはどういうことか,以下の問答通して確認してみます.
「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{10}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{10}\)になりますか?」という問いかけについて考えてみます.こう言われたら,何と答えられるでしょう?…すぐわかるように,答えはyesで「\(n=11\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{11},~\frac{1}{12},~\frac{1}{13},~\frac{1}{14},~\cdots~,\frac{1}{100},~\frac{1}{101},~\cdots\]はどれも\(\frac{1}{10}\)より小さい.
次に,もっと小さい数\(\frac{1}{100}\)をもってこられて,「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{100}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{100}\)になりますか?」という問われたらどうでしょう?今度は先ほどの\(n=11\)じゃ全然だめですね.でも,\(n\)を大きくとって,「\(n=101\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{101},~\frac{1}{102},~\frac{1}{103},~\frac{1}{104},~\cdots~,\frac{1}{1000},~\frac{1}{1001},~\cdots\]
はどれも\(\frac{1}{100}\)より小さい.
では,さらに小さい数\(\frac{1}{1000}\)をもってこられて,「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{1000}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{1000}\)になりますか?」と問われたら…?今度は\(n=11\)はもちろん,先ほどの\(n=101\)でも全然だめですね.でも,\(n\)をさらに大きくとって,「\(n=1001\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{1001},~\frac{1}{1002},~\frac{1}{1003},~\frac{1}{1004},~\cdots~,\frac{1}{10000},~\frac{1}{10001},~\cdots\]
はどれも\(\frac{1}{1000}\)より小さい.
このように,パワーインフレ大好き小学生を連れてきてとにかく小さい数を言わせて例えば「100億兆分の1!」とか言いだしたとしても,その数に応じて逆数をとって\(1\)を加えて「じゃあ,100億兆1番(目以降)」と,\(a_n\)と\(0\)との差が100億兆分の1になるような項たち(番号たち)を即座に提示できます.一般には,与えられた(小さな)数\(\epsilon >0\)に対して\(\left[\frac{1}{\epsilon}\right]+1\)と提示してやればよいでしょう([]はガウス記号).
どんなむちゃくちゃな(小さな)正の数を言われても,その数に応じて,番号を即座に提示し返すことができる(番号の存在を示せる)とき,数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)は\(0\)に限りなく近づく(収束する)といい,\(\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty}a_n=0\)と書くわけです.これが「限りなく近づく(収束する)」の数学的な定義で,この論法をイプシロン・エヌ論法と言います.
任意の正の数\(\epsilon\)に対して,\(N \in \mathbb{N}\)が存在し,\(n>N\)ならば,\(|a_n-\alpha| < 0\)が成り立つとき,数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)は\(\alpha\)に収束するといい,\[\lim_{n \rightarrow \infty}a_n=\alpha\]とかく.
上の定義は日本語が長ったらしくて煩わしいですね.論理記号を用いて記述すると,\[\forall\epsilon >0 \exists N \in \mathbb{N} [n > N \Longrightarrow |a_n – \alpha| < 0]\]または\[\forall\epsilon >0 \exists N \in \mathbb{N} \forall n\in \mathbb{N}[n > N \longrightarrow |a_n – \alpha| < 0]\]と簡潔に記述できます.論理式に慣れることはこのような意味でも重要です.また,\(\epsilon\)に応じて\(N\)が定まるわけですから,\(\forall,~ \exists\)の順であることに注意しましょう.
証明のキモ(目標)は,任意に与えられた\(\epsilon\)に対して(応じて),番号\(N\)の存在が示せるか否か,ということです.「存在を示せ」と言われたら,実際にその現物をもってくればよい.この問題で言えば,\(N=\left[\frac{1}{\epsilon}\right]+1\)と現物を提示できたので,証明が完了したことになります.
この定義により,高校段階では証明ぬきに使っていたこんな公式や,直観的に受け入れるしかなかったはさみうちの原理なんかも証明できます.