任意の

とある問題の証明を読んでいたら,こんな一文に出会いました.記号の意味はさておき,\(\delta(A),\delta(\overline{A}),\epsilon\)はいずれも実数です.

(中略) \(\delta(\overline{A}) \leq \delta(A) + \epsilon\).\(\epsilon\)は任意の正数だから,\(\delta(\overline{A}) \leq \delta(A)\).

 

(ここで理解が詰まる)

「任意」と言われたから,どんな正数でもOKですが,でかい数をもってきても結論の不等式が得られるとは思えませんから,めちゃくちゃ小さい数を持ってくることにします.\(\delta(A)\)に加えられる数\(\epsilon\)をめちゃくちゃ小さくしたとしてもやっぱり\(\delta(\overline{A})\)よりも\(\delta(A)\)の方が大きい…,ということは\(\delta(A)\)の方が大きいと言える…のか…??感覚的には納得できるような気もしないでもないですが,でも小さいとはいえ正数を加えられている以上それを除いてもやはり\(\delta(\overline{A})\)以上だ,なんて言えるのだろうか,とも感じられ,釈然としません.

議論に関係のない文字がうるさいので,ちょっと簡略化して書き直します.

\(a,b \in \mathbb{R}\)とする.
任意の正数\(\epsilon\)に対して\(a \leq b + \epsilon\)が成り立つならば,\(a \leq b\)が成り立つ.

こう書くとちょっと高校数学の証明問題ぽいですね.実際,いちおう数学Aの集合と論理を終えた高1生なら理解できる(証明できる)と思います.調べてみましょう.

証明

背理法で示す.証明したいことは
\[\forall \epsilon >0 [a \leq b + \epsilon ]\Longrightarrow a \leq b\]
であるから,否定をとると
\begin{align*}
&\overline{\forall \epsilon >0 [a \leq b + \epsilon ]\Longrightarrow a \leq b}\\
\Longleftrightarrow~&\overline{\overline{\forall \epsilon >0 [a \leq b + \epsilon ]} \lor a \leq b}\\
\Longleftrightarrow~&\forall \epsilon >0 [a \leq b + \epsilon ] \land a > b
\end{align*}\(a>b\)だから,\(a-b > 0\).また,\(\forall \epsilon >0 [a \leq b + \epsilon ]\),つまり\(a \leq b + \epsilon\)が任意の\(\epsilon > 0\)について成り立つから,ここでは\(\epsilon=\frac{a-b}{2} >0\)ととることにする.すると,\[a \leq b +\frac{a-b}{2} \Longleftrightarrow a \leq b\]を得る.これは\(a>b\)であることに反する.

証明終

この証明,知識としてはほぼ高校数学の知識しか使ってない上にとてもシンプルな論証なので,教科書では無視しがちな「任意の」を重要性を確認させる問題としていいんじゃないかな,なんて思いました.「任意の」と言っているのだから,都合のよい\(\epsilon\)を代入したところがポイントです.

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