「すべての」と言われたら(つづき)

先の記事のアプローチは
\begin{align*}
&\forall l,m,n \in \mathbb{Z}[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny]\\
\Longleftrightarrow~&\forall l,m,n \in \mathbb{Z}[(10^{x-y}+10^{y-z})l+10^{x-z}m+(-x)n=13l+36m+yn]\\
\overset{(\ast)}{\Longleftrightarrow}~&\begin{cases}10^{x-y}+10^{y-z}=13\\10^{x-z}=36\\-x=y\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\cdots\\
\Longleftrightarrow~&\begin{cases}x=\log_{10}3\\y=-\log_{10}3\\z=\log_{10}3-\log_{10}36\end{cases}
\lor\begin{cases}x=\log_{10}2\\y=-\log_{10}2\\z=\log_{10}2-\log_{10}36\end{cases}
\end{align*}というものでした。しかしここで気になるのは\((\ast)\)です。係数比較法を思い出すと,
\begin{align*}
&f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_2x^2+a_1x+a_0\\
&g(x)=b_nx^n+b_{n-1}x^{n-1}+\cdots+b_2x^2+b_1x+b_0
\end{align*}とすれば

\begin{align*}
&f(x)=g(x)\text{が恒等式}\left(\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}~\forall x\in \mathbb{R} [f(x)=g(x)]\right)\\
\Longleftrightarrow~&a_n=b_n,a_{n-1}=b_{n-1},\cdots,a_2=b_2,a_1=b_1,a_0=b_0
\end{align*}

というものでしたが,すべての実数\(l,m,n\)(\(\forall l,m,n \in \mathbb{R}\))ではなく,\(\forall l,m,n\in\mathbb{Z}\)すなわち’とびとび’の\(l,m,n\)で成り立つときも,やはり同じように係数が等しいと結論できるのでしょうか。ここに不安が残ります。

この問題を解決するために,次の定理を証明します。

\(f(x),g(x)\)を\(n\)次以下の整式とする.
\begin{align*}
&f(x)=g(x)\text{が恒等式} \\
\Longleftrightarrow~&f(x)=g(x)\text{が相異なる\(n+1\)個の解をもつ}
\end{align*}

証明

\(\Rightarrow\)は明らかであるから,\(\Leftarrow\)を示す.
\(n+1\)個の相異なる解を\(x_1,x_2,\cdots,x_{n+1}\)とする.仮定により
\begin{align*}
&f(x_1)=g(x_1),f(x_2)=g(x_2),\cdots,f(x_{n+1})=g(x_{n+1})\\
\Longleftrightarrow~&f(x_1)-g(x_1)=0,f(x_2)-g(x_2)=0,\cdots,f(x_{n+1})-g(x_{n+1})=0
\end{align*}であるから\[f(x)-g(x)=(x-x_1)(x-x_2)\cdots(x-x_{n+1})Q(x)\]とかける(因数定理).ここで\(Q(x)\neq 0\)と仮定すると\(f(x)-g(x)\)は\(n+1\)次式となり矛盾する.したがって\(Q(x)=0\).ゆえに\[f(x)=(x-x_1)(x-x_2)\cdots(x-x_{n+1})\cdot 0+g(x)\]より\(\forall x\in\mathbb{R}[f(x)=g(x)]\)を得る.

証明終

この定理によって,\[\forall l,m,n \in \mathbb{Z}[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny]\]は,例えば\(l\)に着目して\(l\)の1次の整式と見なせばこの式は2個以上の\(l\)について成り立ちますから(整数は無限個),上の定理によりすべての\(l\in \mathbb{R}\)で成り立つ,と言えます。\(m,n\)についても同様に考えれば,結局すべての\(l,m,n\in \mathbb{R}\)で成り立つ,すなわち
\begin{align*}
&\forall l,m,n \in \mathbb{Z}[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny]\\
\Longleftrightarrow~&\forall l,m,n \in \mathbb{R}[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny]
\end{align*}であることが分かります。これで上の\((\ast)\)が正しいことが確かめられました。

…と,結果的には正しかったのですが,厳密には上の議論をしなくてはならないので,やはり前回記事最初の解答の方が無難だと個人的に思います。

「すべての」と言われたら

実数の組\((x,y,z)\)で,どのような整数\(l,m,n\)に対しても,等式\[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny\]が成り立つようなものをすべて求めよ.

(大阪大)


もし日常で上のようなやりとりがあればWさんはちょっとアレなひとと評されますが,数学の問題を考える上ではWさんの姿勢の方が正しい。「なんでも」といった以上,例外は許されないからです。

そこでWさんと同じ姿勢で,「すべての」「任意の」と言われたのでその言葉を逆手にとり自分にとって都合の良い\(l,m,n\)を代入してやろう,と考えます。うまく文字が減ってくれそうなのは\(0\)ですから,これの代入を考えます。しかし\(l,m,n\)すべてに\(0\)と代入しても\(0=0\)という正しくも旨味のない式しか得られませんから,\(l,m,n\)のうち\(2\)つを\(0\),他を(簡単な)\(1\)と代入してみることにします。

\((l,m,n)=(1,0,0),(0,1,0),(0,0,1)\)と代入すると,\[\begin{cases}10^{x-y}+10^{y-z}=13\\10^{x-z}=36\\-x=y\end{cases}\]が得られるので,これを解いてみます。

\begin{align*}
&\begin{cases}10^{x-y}+10^{y-z}=13\\10^{x-z}=36\\-x=y\end{cases}\\
\Longleftrightarrow&\begin{cases}10^{x-y}+10^{y-z}=13\\z=x-\log_{10}36\\y=-x\end{cases}
\Longleftrightarrow\begin{cases}10^{2x}+10^{-2x+\log_{10}36}=13\\z=x-\log_{10}36\\y=-x\end{cases}\\
\Longleftrightarrow&\begin{cases}(10^{2x})^2-13\cdot10^{2x}+36=0\\z=x-\log_{10}36\\y=-x\end{cases}
\Longleftrightarrow\begin{cases}(10^{2x}-9)(10^{2x}-4)=0\\z=x-\log_{10}36\\y=-x\end{cases}\\
\Longleftrightarrow&\begin{cases}10^{2x}=9 \lor 10^{2x}=4\\z=x-\log_{10}36\\y=-x\end{cases}
\Longleftrightarrow\begin{cases}x=\log_{10}3 \lor x=\log_{10}2\\z=x-\log_{10}36\\y=-x\end{cases}\\
\Longleftrightarrow&\begin{cases}x=\log_{10}3\\y=-\log_{10}3\\z=\log_{10}3-\log_{10}36\end{cases}
\lor\begin{cases}x=\log_{10}2\\y=-\log_{10}2\\z=\log_{10}2-\log_{10}36\end{cases}
\end{align*}
よって\((x,y,z)=(\log_{10}3,-\log_{10}3,\log_{10}3-\log_{10}36)\)または\((\log_{10}2,-\log_{10}2,\log_{10}2-\log_{10}36)\)と求まります。

しかしこれをもって答えとしてはいけません。なぜならここで得られた結論は必要条件にしか過ぎず,十分条件であるとは限らないからです。つまり
\begin{align*}
&\forall l,m,n\in \mathbb{Z}[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny]\\
&\Longrightarrow\begin{cases}x=\log_{10}3\\y=-\log_{10}3\\z=\log_{10}3-\log_{10}36\end{cases}
\lor\begin{cases}x=\log_{10}2\\y=-\log_{10}2\\z=\log_{10}2-\log_{10}36\end{cases}
\end{align*}
ですが
\begin{align*}
&\forall l,m,n\in \mathbb{Z}[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny]\\
&\Longleftarrow\begin{cases}x=\log_{10}3\\y=-\log_{10}3\\z=\log_{10}3-\log_{10}36\end{cases}
\lor\begin{cases}x=\log_{10}2\\y=-\log_{10}2\\z=\log_{10}2-\log_{10}36\end{cases}
\end{align*}
とは限らない,ということです。なので逆(\(\Leftarrow\))を調べる必要があります:

\((x,y,z)=(\log_{10}3,-\log_{10}3,\log_{10}3-\log_{10}36)\)のとき
式\[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny\]にこれらを代入すると\[13l+36m+(-\log_{10}3)n=13l+36m+(-\log_{10}3)n\]となり,これは明らかにすべての\(l,m,n\in\mathbb{Z}\)で成り立つ。

\((x,y,z)=(\log_{10}2,-\log_{10}2,\log_{10}2-\log_{10}36)\)のとき
上と同様にこれらを代入すると\[13l+36m+(-\log_{10}2)n=13l+36m+(-\log_{10}2)n\]が得られ,やはりすべての\(l,m,n\in\mathbb{Z}\)で成り立つ。

これで逆も言えました。すなわち
\begin{align*}
&\forall l,m,n\in \mathbb{Z}[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny]\\
&\Longleftrightarrow\begin{cases}x=\log_{10}3\\y=-\log_{10}3\\z=\log_{10}3-\log_{10}36\end{cases}
\lor\begin{cases}x=\log_{10}2\\y=-\log_{10}2\\z=\log_{10}2-\log_{10}36\end{cases}
\end{align*}であることが分かり,今度は自信をもって\((x,y,z)=(\log_{10}3,-\log_{10}3,\log_{10}3-\log_{10}36)\)または\((\log_{10}2,-\log_{10}2,\log_{10}2-\log_{10}36)\)が答えであるといえます。

追記

次のような解法はどうでしょうか。

\(l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny\)の左辺を\(l,m,n\)で整理して係数を比較してはどうか?

 
すなわち,
\begin{align*}
&\forall x \in \mathbb{Z}[l\cdot10^{x-y}-nx+l\cdot10^{y-z}+m\cdot10^{x-z}=13l+36m+ny]\\
\Longleftrightarrow~&\forall x \in \mathbb{Z}[(10^{x-y}+10^{y-z})l+10^{x-z}m+(-x)n=13l+36m+yn]\\
\overset{(\ast)}{\Longleftrightarrow}~&\begin{cases}10^{x-y}+10^{y-z}=13\\10^{x-z}=36\\-x=y\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\cdots\\
\Longleftrightarrow~&\begin{cases}x=\log_{10}3\\y=-\log_{10}3\\z=\log_{10}3-\log_{10}36\end{cases}
\lor\begin{cases}x=\log_{10}2\\y=-\log_{10}2\\z=\log_{10}2-\log_{10}36\end{cases}
\end{align*}
です。得られる3つの式は同じなので一見正しそうです。このアプローチについて詳しく見てみます。(つづく)

実験する

次の\(2\)つの条件\(\mathrm{(i),(ii)}\)をみたす自然数\(n\)について考える.

\(\mathrm{(i)}~\)\(n\)は素数ではない.
\(\mathrm{(ii)}~\)\(l,m\)を\(1\)でも\(n\)でもない\(n\)の正の約数とすると,必ず\[|l-m|\leq 2\]である.このとき,次の問いに答えよ.

    1. \(n\)が偶数のとき,\(\mathrm{(i),(ii)}\)をみたす\(n\)をすべて求めよ.
    2. \(n\)が\(7\)の倍数のとき,\(\mathrm{(i),(ii)}\)をみたす\(n\)をすべて求めよ.
    3. \(2\leq n \leq 1000\)の範囲で,\(\mathrm{(i),(ii)}\)をみたす\(n\)をすべて求めよ.

(大阪大)

うーん/(^o^)\
なんかよくわからないので,実験してみます。

(考え方)

\(\textbf{1.}\)
偶数\(2,4,6,8,\cdots\)を順に調べてみます。

するとどうやら,\(n\)が\(10\)以降だと適するものが現れないのでは?と予想できます。そこで,「\(n\geq 10\)ならば\(n\)は\(\mathrm{(i),(ii)}\)を満たさない」という命題の証明を試みます。実際,\(n=2k~(k\geq 5)\)とおくと,\(2\)と\(k\)は\(n(=2k)\)の\(1\)でも\(n\)でもない正の約数ですが,\[|k-2|=k-2\geq 5-2 =3\]となり\((\mathrm{ii})\)を満たしません。

これで\(1.\)の答えは\(4,6,8\)のみであることが分かりました。

\(\textbf{2.}\)
これも\(1.\)と同様に考えてみます。ただし\(n\)が偶数の場合は\(1.\)ですでに調べているので,これを除いて調べていきます:

すると\(n\)が\(63\)以降だと適するものが現れないのでは?と予想できます。そこで「\(n\geq 63\)ならば\(n\)は\(\mathrm{(i),(ii)}\)を満たさない」という命題の証明を試みると:

\(n=7k~(k\geq 9)\)とおく.\(k=9\)とき,\(n=63\)より正の約数は\(1,3,7,9,21,63\)だから\((\mathrm{ii})\)を満たさない.\(k \geq 11\)のとき,\(7\)と\(k\)は\(n(=7k)\)の\(1\)でも\(n\)でもない正の約数だが,\[|k-2|=k-2\geq 11-2 =9\]となり\((\mathrm{ii})\)を満たさない.

これで\(2.\)の答えは\(35\)と\(49\)のみであることが分かりました。

\(\textbf{3}.\)
上と同じように考えれば,\(n\)が\(3\)の倍数のとき,\(5\)の倍数のときも同じように\(\mathrm{(i),(ii)}\)を満たす\(n\)が簡単に見つかる気がします。もしそうであれば,結局\(2,3,5,7\)の倍数についてはすべて調べ上げたことになるので,調べるべき残りの\(n\)は(\(\mathrm{(i)}\)より\(n\)は素数でないことに注意すれば)\(11\)以上の素因数からなる合成数のみ調べればよいことが分かります(エラトステネスのふるい)。また,その合成数の因数の個数に着目すれば,因数の個数が\(1\)個のとき素数になるから\(\mathrm{(i)}\)を満たさず,因数の個数が\(3\)個以上のときは最小でも\(11^{3}=1331\)となり\(1000\)を超えてしまうことから,(素)因数の個数は\(2\)個であることが分かります。さらに,\(37 \times 37 =1369>1000\)より,\(37\)以降の素数については考える必要はありません。以上の考察から以下のように結論できます:

\(n\)が\(3\)の倍数の場合
\(2,7\)の倍数のときはすでに調べてあり,また\(5\)の倍数の場合はこのあと調べるのでこれらを除いて調べると

求める\(n\)は\(9\)のみであることが分かる(証明は上と同様なので割愛).

\(n\)が\(5\)の倍数の場合

求める\(n\)は\(15\)と\(25\)のみであることが分かる(証明割愛).
あとは素因数が\(11\)以上で\(31\)以下であり,かつその個数が\(2\)個である合成数のみを調べればよい.


するとそれは(\(\mathrm{(ii)}\)に注意して)\[11^2,13^2,17^2,19^2,23^2,29^2,31^2,11\times13,17\times19,29\times 31\]すなわち\[121,169,289,361,529,841,961,143,323,899\]のみであることがわかる.以上により求める\(n\)は\[4,6,8,9,15,25,35,49,121,143,169,289,323,361,529,841,899,961\]となる.

(考え方終わり)

既知の解法にはまらないとき,あるいは既知の解法に帰着しないとき(=何をすればいいのか見通しが立たないとき),「とりあえず実験してみて,予想し,それを証明する」という姿勢はしばしば有効な気がします。(少なくとも泥臭く手を動かすだけで\(2.\)までは答えを導ける!)

© 2023 佐々木数学塾, All rights reserved.