「ならば」の否定

問題
\(a,~b\)を有理数とするとき,\(\sqrt{3}\)が無理数であることを用いて,「\(a+b\sqrt{3}=0\)ならば\(a=0\)かつ\(b=0\)」であることを証明せよ.

定番問題です。解答を見ると,次のように始まります。

\(b\neq 0\)とすると…

 

賢明な生徒であればここで「背理法かな?」気付くはず。それは正しいです。では,与えられた命題「\(a+b\sqrt{3}=0\)ならば\(a=0\)かつ\(b=0\)」の否定が「\(b\neq 0\)」ということでしょうか?…うーん明らかに違う気が。。

「\(a+b\sqrt{3}=0\)ならば\(a=0\)かつ\(b=0\)」の否定がどうなるかに注意しつつ,証明を作ってみます。与えられた命題は論理記号を用いて「\(a+b\sqrt{3}=0\Longrightarrow a=0\land b=0\)」と書けることに注意して,

証明(その1)

\[\overline{ a+b\sqrt{3}=0 \Longrightarrow a=0 \land b=0}\]と仮定する.
\begin{align}
&\overline{ a+b\sqrt{3}=0 \Longrightarrow a=0 \land b=0}\\
\Longleftrightarrow~ &\overline{\overline{a+b\sqrt{3}=0} \lor (a=0 \land b=0)}&(\Rightarrow \text{の定義})\\
\Longleftrightarrow~ &a+b\sqrt{3}=0 \land \overline{a=0 \land b=0}&(\text{ドモルガンの法則})\\
\Longleftrightarrow~ &a+b\sqrt{3}=0 \land (a \neq 0 \lor b \neq 0)&(\text{ドモルガンの法則})\\
\Longleftrightarrow~ &(a+b\sqrt{3}=0 \land a \neq 0 ) \lor (a+b\sqrt{3}=0 \land b \neq 0)&(\text{分配法則})\\
\Longleftrightarrow~ &\left(1+\frac{b}{a}\sqrt{3}=0 \land a \neq 0 \right) \lor \left(\frac{a}{b}+1\sqrt{3}=0 \land b \neq 0\right)\\
\Longleftrightarrow~ &\left(\frac{-3b}{a}=\sqrt{3} \land a \neq 0 \right) \lor \left(-\frac{a}{b}=\sqrt{3} \land b \neq 0\right)\\
\Longleftrightarrow~ &\bot \lor \bot\\
\Longleftrightarrow~ &\bot
\end{align}

したがってもとの命題は正しい.

証明終

\(\bot\)は矛盾命題を表します。

…では,模範解答の「\(b\neq 0\)とすると~」は一体何をしているのでしょうか?これはおそらく以下のようだと思われます:

証明(その2)

\[
\begin{align}
&a+b\sqrt{3}=0 \Rightarrow b=0 \\
\overset{(\ast)}\Longleftrightarrow~&a+b\sqrt{3}=0 \Rightarrow a+b\sqrt{3}=0 \land b=0 \\
\Longleftrightarrow~ &a+b\sqrt{3}=0 \Rightarrow a=0 \land b=0
\end{align}
\]
であるから,\[a+b\sqrt{3}=0 \Rightarrow b=0\]を示せばよい.この命題を否定すると\[a+b\sqrt{3}=0 \land b\neq 0\]であるが,
\[a+b\sqrt{3}=0 \land b\neq 0\Longleftrightarrow\sqrt{3}=-\frac{a}{b} \land b\neq 0\]これは矛盾である.

証明終

上の証明における\((\ast)\)は,(直観的にはまあ明らか,ではありますが)\[(P\Rightarrow Q) \Longleftrightarrow (P\Rightarrow P \land Q)\]という論理式によります。いずれにしても,ならば(含意)の否定というものを学んでいない以上,上のような証明は作りようがない。いきなり「\(b \neq 0\)とする」なんて言われても納得しようがないし,安易に納得してはいけない。ちなみにこの解答の脚注にはこんな一言が載っています。「結論が\(p\)かつ\(q\)という命題を背理法を用いて証明するときは\(\overline{p}\)または\(\overline{q}\)のみを仮定して矛盾を導けばよい」…でもそうすべき理由とその方針が正しい理由は?

まあ,ある程度はブラックボックス化するのはやむを得ないとはいえ,ここは端折るところではないのでは…と思います。さもなければそもそも\(P\Rightarrow Q \land R\)なんて命題の証明なんて取り扱わないで欲しい。生徒に説明するとき誤魔化すハメになりほんと迷惑極まりない。

 

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