軌跡の問題を論理式で記述する

2直線\(kx+2y-k+4=0\)と\(2x-ky+6-2k=0\)がある.\(k\)の値が変化するとき,この2直線の交点の軌跡の方程式を求めよ.

網羅系問題集には必ず載ってる軌跡の有名問題です.この手の問題に難儀した人は少なくないと思います.初めて見る人はこれを教科書で学んだ方法で解答を作成してみましょう.正解ならOK(軌跡に「漏れ」や「余計なもの」が入っていたらそれは正解とはいいませんよ).不正解なら以下を読んでみてください.

論理式で記述してみます.

求める軌跡上の点を\((X,~Y)\)とします.「\((X,~Y)\)が軌跡上の点である」ということを「\((X,~Y)\in\text{軌跡}\)」と表すことにします.この「\((X,~Y)\in\text{軌跡}\)」を同値変形することを考えます.

\[
\begin{align*}
&(X,~Y)\in\text{軌跡}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
kX+2Y-k+4=0\\
2X-kY+6-2k=0
\end{cases}\tag{1}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
(X-1)k=-2Y-4\\
2X-kY+6-2k=0
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
(X-1)k=-2Y-4\land(X-1=0 \lor X-1\neq 0)\\
2X-kY+6-2k=0\tag{2}
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
((X-1)k=-2Y-4\land X-1=0) \lor ((X-1)k=-2Y-4\land X-1\neq 0)\\
2X-kY+6-2k=0\tag{3}
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
(0\cdot k=-2Y-4\land X=1) \lor (k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1)\\
2X-kY+6-2k=0
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
(X=1\land Y=-2) \lor (k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1)\\
2X-kY+6-2k=0
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\left(((X=1\land Y=-2) \lor (k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1))\land 2X-kY+6-2k=0\right)\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\left((X=1\land Y=-2\land 2X-kY+6-2k=0) \lor (k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1\land 2X-kY+6-2k=0)\right)\tag{4}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k(X=1\land Y=-2\land 2X-kY+6-2k=0) \lor \exists k(k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1\land 2X-kY+6-2k=0)\tag{5}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k(X=1\land Y=-2\land 2\cdot 1-k\cdot (-2)+6-2k=0) \lor (X\neq 1\land 2X-\frac{-2Y-4}{X-1}Y+6-2\frac{-2Y-4}{X-1}=0)\tag{6}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k(X=1\land Y=-2\land 0\cdot k+8=0) \lor (X\neq 1\land X^2+2X+Y^2+4Y+1=0)\tag{7}\\
\Longleftrightarrow~&X\neq 1\land (X+1)^2+(Y+2)^2=4\tag{8}\\
\end{align*}
\]

となって求める軌跡の方程式を得ます.通常の解答を見るとわかりますが,読めばとりあえず理解はできるものの,いざ自分で解答をつくれと言われると次に何をやればよいのか見えずらく(必然性が感じられず)不安に感じるタイプの問題ではないでしょうか.で,結局半ば流れを「覚えよう」となるっていう.しかし,上で見るように論理式で記述すると機械的な変形(次にすべきことが明解で迷いがない,もはや「計算」するような感覚)により答えを得ることがきます.これが論理式の強力な点だと思います.

ただし上の変形は論理に関する様々な知識を使っています.

\((1)\)は存在条件への言い換えです.
\((2)\)は恒真条件\(X-1=0\lor X-1\neq 0\)の追加
\((3)\)は分配法則
\((4)\)は分配法則
\((5)\)は存在記号の分配法則
\((6)\)後半は存在記号があるので\(k\)を消去できて
\((7)\)の前半は矛盾命題なので\((8)\)と同値になります.

(というか数式がはみ出て見づらくてすみません…)

係数比較法と数値代入法

等式
\[a(x+1)(x-1)+bx(x+1)+cx(x-1)=3x-1\]
が\(a\)についての恒等式となるように,定数\(a,~b,~c\)の値を求めよ.

(東京書籍 数学Ⅱ「式と証明」より抜粋)

この定番問題には2つのアプローチがあります。係数比較法と数値代入法です。教科書等の解答を見ると,「数値代入法」では「逆に~」という記述がある一方,「係数比較法」ではその種の記述は見当たりません。なぜか?これを論理式を用いて考察してみます。

(係数比較法)
\[
\begin{align*}
&a(x+1)(x-1)+bx(x+1)+cx(x-1)=3x-1\text{が恒等式}\\
\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}~&\forall x\in \mathbb{R}[a(x+1)(x-1)+bx(x+1)+cx(x-1)=3x-1]\\
\Longleftrightarrow~& \forall x\in \mathbb{R}[(a+b+c)x^2+(b-c-3)x-a+1=0]\\
\overset{(\ast)}{\Longleftrightarrow}~& a+b+c=0 \land b-c-3=0 \land -a+1=0\\
\Longleftrightarrow~& a=1 \land b=1 \land c=-2\\
\end{align*}
\]

どの行を眺めても,恒等式の定義(どんな\(x\)についても式が成り立つ)と単純な計算による変形なので同値性は崩しておらず,問題ありません。
強いて言えば\((\ast)\)の\(\Rightarrow\)でしょうか。気になるのは。念のため証明してみます:

\((\ast)\)の\(\Rightarrow\)の証明

背理法で考える.
\begin{align*}
&\neg (\forall x\in \mathbb{R}[(a+b+c)x^2+(b-c-3)x-a+1=0]\\
&\Rightarrow a+b+c=0 \land b-c-3=0 \land -a+1=0)\\
\Longleftrightarrow~&\forall x\in \mathbb{R}[(a+b+c)x^2+(b-c-3)x-a+1=0]\\
&\land (a+b+c\neq 0 \lor b-c-3\neq 0 \lor -a+1\neq 0)\\
\end{align*}
すると\((a+b+c)x^2+(b-c-3)x-a+1=0\)の左辺は\(2\)次関数または\(1\)次関数または定数関数(ただし\(0\)でない)となるが,いずれにしてもすべての\(x\)で\(0\)と等しくなることなく,矛盾する.

証明終

次に数値代入法で考えてみます。

(数値代入法)

与式を\(f(x)=g(x)\)とおきます。

\[
\begin{align*}
&a(x+1)(x-1)+bx(x+1)+cx(x-1)=3x-1\text{が恒等式}\\
\Longleftrightarrow~&\forall x\in \mathbb{R}[f(x)=g(x)]\\
\overset{(\ast)}{\Longrightarrow}~& f(-1)=g(-1) \land f(0)=g(0) \land f(1)=g(1)\\
\Longleftrightarrow~& a+b+c=0 \land b-c-3=0 \land -a+1=0\\
\Longleftrightarrow~& a=1 \land b=1 \land c=-2\\
\end{align*}
\]

\((\ast)\)で同値性を崩しているので,逆(十分性)を確認する.すなわち,\[a=1 \land b=1 \land c=-2~\Longrightarrow \forall x\in \mathbb{R}[f(x)=g(x)]\]を確認しなくてはなりません:

\(a=1 \land b=1 \land c=-2\)のとき,\(f(x)=g(x)\)は,

\[
\begin{align*}
&f(x)=g(x)\\
\Longleftrightarrow~&(x+1)(x-1)+x(x+1)-2x(x-1)=3x-1\\
\Longleftrightarrow~& x^2-1+x^2+x-2x^2+2x=3x-1\\
\Longleftrightarrow~& 3x-1=3x-1\\
\end{align*}
\]

と変形でききますが,これは明らかにすべての\(x\)で成り立ちます。したがって恒等式です。十分性が確認できたので,\(a=1, b=1 , c=-2\)は必要十分条件であることが確認できました。

「『どんな\(x\)でも成り立つ』のなら都合のいい\(x\)を代入してやれ~」の精神で\(-1,~0,~1\)を代入するわけですが,そうして得られた命題はあくまで「\(-1,~0,~1\)という\(x\)で\(f(x)=g(x)\)成り立つ」ことを主張しており,「すべての\(x\)で\(f(x)=g(x)\)が成り立つ(\(f(x)=g(x)\)が恒等式である)」ことを主張してはいません。つまり必要条件にしか過ぎない。だから,逆の調査が必要なのです。以前紹介した\[P_1\Longrightarrow P_2\Longrightarrow P_3\Longrightarrow\cdots \Longrightarrow P_n\]と変形してから,\[P_1\Longleftarrow P_n\](十分性)を確認する,という考え方ですね。

これは教科書の問題ですが,こういった教科書例題レベルの問題にはこういった論理が潜んでいます。学び始めは,テスト等で点数を取るために「とりあえず展開して係数を比較すればいい!」と「解法」を記憶することで一杯一杯だと思いますが,このような背景にも目を向けておくこともまた大切だと思います。

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