確率の乗法定理

条件付き確率の定義より,\[P(B|A)=\frac{P(B\cap A)}{P(A)}\]
両辺に\(P(A)\)を掛けることによって,\[P(A \cap B)=P(A)P(B|A)\]が得られます.(\(P(B \cap A)=P(A\cap B)\)としました)これを確率の乗法定理といいます.

確率の乗法定理(その1)\[P(A \cap B)=P(A)P(B|A)\]

日本語に翻訳すると「事象\(A\)と事象\(B\)が同時に起こる確率は,事象\(A\)の確率と,事象\(A\)の影響を受けた事象\(B\)の確率(条件付き確率)との積に等しい」ということで,少し確率の問題に慣れた人であればいつも無意識にやっている計算だと思います.例題で確認してみます.
当たりくじ3本を含む10本のくじの中から,引いたくじはもとに戻さないで,1本ずつ2回続けてくじを引く.2本とも当たる確率を求めよ.また,2回目が当たる確率いくらか.

1回目が当たるという事象を\(A\),2回目が当たるという事象を\(B\)とします.

2本とも当たる確率)
求める確率は\(P(A\cap B)\)です.確率の乗法定理より,\(P(A \cap B)=P(A)P(B|A)\)ですから,\(P(A)\)と\(P(B|A)\)を求めましょう.\(P(A)=\frac{3}{10}\)なのは問題ないでしょう.\(P(B|A)\)を求めます.これは「1回目が当たったという事実のもとで2回目が当たる確率」ですから,「引いたくじはもとに戻さない(当たりが1枚減る)」ことに注意せねばなりません.1回目に当たりを引けば,その後全体の枚数は9枚,当たりは2枚になりますから,\(P(B|A)=\frac{2}{9}\)です.したがって求める確率は\[P(A \cap B)=P(A)P(B|A)=\frac{3}{10}\cdot\frac{2}{9}=\frac{1}{15}\]となります.

2回目が当たる確率)
求める確率は\(P(B)\)です.まず気をつけて欲しいのは,求めようとしているのは確率\(P(B)\)であって確率\(P(B|A)\)ではない,ということ.すなわち,確率を求めようとしている今この時,まだ1回目は引いてもいない!何もしていない!ということです.まだなにもしていない,くじの前で黙って腕を組んだまま2回目を予想している(\(P(B)\)を求めようとしている)…そんなイメージです.1回目は引いてもいないし眼中にもありません.2回目だけを見つめています.以上に留意して,実際に\(P(B)\)を求めてみましょう.確率の定義に従います.2回目に起こりうるすべての場合の数は?2回目において,10枚のくじのどれが引きやすくどれが引きにくいなどということはありません(同様に確からしい).よって10通り.題意に適する場合の数は?当たり3枚のうちどれが引きやすくどれが引きにくいということはやはりありません.よって3通り.したがって求める確率は,\[P(B)=\frac{3}{10}\]となります.\(P(B|A)\neq P(B)\)であることに注目してください.

次の問題です.

当たりくじ3本を含む10本のくじの中から,1本ずつ2回続けてくじを引く.2本とも当たる確率を求めよ.ただし,引いたくじはもとに戻すものとする.また,2回目に当たる確率はいくらか.

2本とも当たる確率)
求める確率は\(P(A\cap B)\)です.確率の乗法定理より,\(P(A \cap B)=P(A)P(B|A)\)ですから,\(P(A)\)と\(P(B|A)\)を求めましょう.\(P(A)=\frac{3}{10}\)なのは問題ないでしょう.\(P(B|A)\)を求めます.これは「1回目が当たったという事実のもとで2回目が当たる確率」なわけですが,今回は引いたくじをもとに戻しています.ですから,2回目の状況は1回目の状況となんら変化がないことになります.したがって,\(P(B|A)=\frac{3}{10}\)となります.よって,求める確率は\[P(A \cap B)=P(A)P(B|A)=\frac{3}{10}\cdot\frac{3}{10}=\frac{9}{100}\]となります.

2回目が当たる確率)
求める確率は\(P(B)\)です.前問同様に考えます.2回目に起こりうるすべての場合の数は?2回目において10枚のくじのどれもが同様に確からしい.よって10通り.題意に適する場合の数は?当たり3枚のうちどれもがやはり同様に確からしい.よって3通り.したがって求める確率は,\[P(B)=\frac{3}{10}\]となります.前問と全く同じです.

さて,今回は\(P(B|A)\),\(P(B)\)はどちらも\(\frac{3}{10}\)ですから\(P(B|A)=P(B)\)です.この,\[P(B|A)=P(B)\]が成り立つとき,事象\(A\)と事象\(B\)は独立であるといいます.この式を「翻訳」すると,「\(B\)の確率は\(A\)が起きたかどうかなんて関係ない」と,すなわち「事象\(A\)と事象\(B\)が互いに影響を及ぼしていない」と読み取ることができます.

以上の準備のもと,次の定理が成り立ちます.

確率の乗法定理(その2)事象\(A\)と事象\(B\)が独立,すなわち\(P(B|A)=P(B)\)のとき\[P(A \cap B)=P(A)P(B)\]

高校教科書では上の話を,「2つの試行同士が互いに影響を与えない」ことを「独立」であると定義し,そのもとで確率の乗法定理(その2)を紹介しています.そしてこの話とは別の話題として(大分後になってから)「条件付き確率」から「確率の乗法定理(その2)」を導く,という順序で説明しています.なので,確率の乗法定理が2回(しかもそのあいだかなり間を挟んでから)登場することになり,それらにどのような関係があるのかがいまいち見えづらいのではないでしょうか.

しかし,上でみたように\[\text{条件付き確率の定義}\rightarrow\text{確率の乗法定理その1}\rightarrow\text{「独立」の定義}\rightarrow\text{確率の乗法定理その2}\]という流れで理解すると,高校教科書では「別々のもの」として載っている2つの確率の乗法定理が同じもの(その1を特殊化したものがその2)であることが明解で,論理的にはしっくりくると個人的に思います.

もっとも,実用上においては(実際問題を解く上では)どちらの理解でも大差はないと思いますが…