イプシロン・エヌ論法

数列\((a_n)_{n\in\mathbb{N}} = \left(\frac{1}{n}\right)_{n \in\mathbb{N}}\)について\[\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}a_n=0\]を証明せよ.

\[(a_n)_{n \in \mathbb{N}}:\frac{1}{1},~\frac{1}{2},~\frac{1}{3},~\cdots~,\frac{1}{10},~\cdots~,\frac{1}{100},~\cdots~,\frac{1}{1000},~\cdots\]

ですから,\(0\)に限りなく近づくことは直観的には明らか(?)ですが,これをきちんと定義に従って証明してみます.この記事では,その「限りなく近づく」ことの数学的な定義とはどういうことか,以下の問答通して確認してみます.

「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{10}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{10}\)になりますか?」という問いかけについて考えてみます.こう言われたら,何と答えられるでしょう?…すぐわかるように,答えはyesで「\(n=11\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{11},~\frac{1}{12},~\frac{1}{13},~\frac{1}{14},~\cdots~,\frac{1}{100},~\frac{1}{101},~\cdots\]はどれも\(\frac{1}{10}\)より小さい.


次に,もっと小さい数\(\frac{1}{100}\)をもってこられて,「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{100}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{100}\)になりますか?」という問われたらどうでしょう?今度は先ほどの\(n=11\)じゃ全然だめですね.でも,\(n\)を大きくとって,「\(n=101\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{101},~\frac{1}{102},~\frac{1}{103},~\frac{1}{104},~\cdots~,\frac{1}{1000},~\frac{1}{1001},~\cdots\]
はどれも\(\frac{1}{100}\)より小さい.

では,さらに小さい数\(\frac{1}{1000}\)をもってこられて,「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{1000}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{1000}\)になりますか?」と問われたら…?今度は\(n=11\)はもちろん,先ほどの\(n=101\)でも全然だめですね.でも,\(n\)をさらに大きくとって,「\(n=1001\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{1001},~\frac{1}{1002},~\frac{1}{1003},~\frac{1}{1004},~\cdots~,\frac{1}{10000},~\frac{1}{10001},~\cdots\]
はどれも\(\frac{1}{1000}\)より小さい.

このように,パワーインフレ大好き小学生を連れてきてとにかく小さい数を言わせて例えば「100億兆分の1!」とか言いだしたとしても,その数に応じて逆数をとって\(1\)を加えて「じゃあ,100億兆1番(目以降)」と,\(a_n\)と\(0\)との差が100億兆分の1になるような項たち(番号たち)を即座に提示できます.一般には,与えられた(小さな)数\(\epsilon >0\)に対して\(\left[\frac{1}{\epsilon}\right]+1\)と提示してやればよいでしょう([]はガウス記号).

どんなむちゃくちゃな(小さな)正の数を言われても,その数に応じて,番号を即座に提示し返すことができる(番号の存在を示せる)とき,数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)は\(0\)に限りなく近づく(収束する)といい,\(\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty}a_n=0\)と書くわけです.これが「限りなく近づく(収束する)」の数学的な定義で,この論法をイプシロン・エヌ論法と言います.

「限りなく近づく」の定義
任意の正の数\(\epsilon\)に対して,\(N \in \mathbb{N}\)が存在し,\(n>N\)ならば,\(|a_n-\alpha| < 0\)が成り立つとき,数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)は\(\alpha\)に収束するといい,\[\lim_{n \rightarrow \infty}a_n=\alpha\]とかく.

上の定義は日本語が長ったらしくて煩わしいですね.論理記号を用いて記述すると,\[\forall\epsilon >0 \exists N \in \mathbb{N} [n > N \Longrightarrow |a_n – \alpha| < 0]\]または\[\forall\epsilon >0 \exists N \in \mathbb{N} \forall n\in \mathbb{N}[n > N \longrightarrow |a_n – \alpha| < 0]\]と簡潔に記述できます.論理式に慣れることはこのような意味でも重要です.また,\(\epsilon\)に応じて\(N\)が定まるわけですから,\(\forall,~ \exists\)の順であることに注意しましょう.

証明のキモ(目標)は,任意に与えられた\(\epsilon\)に対して(応じて),番号\(N\)の存在が示せるか否か,ということです.「存在を示せ」と言われたら,実際にその現物をもってくればよい.この問題で言えば,\(N=\left[\frac{1}{\epsilon}\right]+1\)と現物を提示できたので,証明が完了したことになります.

この定義により,高校段階では証明ぬきに使っていたこんな公式や,直観的に受け入れるしかなかったはさみうちの原理なんかも証明できます.

★解析学演習

\(\displaystyle \lim_{x \rightarrow a}g(x)=\beta\)で\(g(x)\neq 0,~\beta \neq 0\)のとき,\(\displaystyle \lim_{x \rightarrow a} \frac{1}{g(x)}=\frac{1}{\beta}\)であることを証明せよ.
(田島一郎解析入門P16問16)

(証明)

与えられた仮定は\(\displaystyle \lim_{x \Rightarrow a}g(x)=\beta\)すなわち
\[\forall \epsilon>0 \exists \delta>0 \big[0<|x-a|<\delta \Longrightarrow |g(x)-\beta|<\epsilon \big]\tag{\(\ast\)}\] である.問15より,この仮定から \[\beta >0 \text{のとき,}0 < \frac{|\beta|}{2} < g(x) < \frac{3}{2}|\beta|\tag{1}\]
\[\beta <0 \text{のとき,}-\frac{3}{2}|\beta| < g(x) < -\frac{|\beta|}{2} < 0\tag{2}\]
という結論を得たのだった.\((1),(2)\)から,
\[
\begin{align*}
(1)\Longrightarrow~& \frac{|\beta|}{2} < |g(x)| < \frac{3}{2}|\beta|\\
(2)\Longrightarrow~&-\frac{3}{2}|\beta| < g(x) < -\frac{|\beta|}{2}\\
\Longrightarrow~&-\frac{3}{2}|\beta| < -|g(x)| < -\frac{|\beta|}{2}\\
\Longrightarrow~&\frac{|\beta|}{2} < |g(x)| < \frac{3}{2}|\beta|\\
\end{align*}
\]
となり結局\(\beta\)の正負に関わらず\[\frac{|\beta|}{2} < |g(x)| < \frac{3}{2}|\beta|\tag{\(\ast\ast\)}\]が得られることになる.

さて,今示したいのは \[\displaystyle \lim_{x \rightarrow a} \frac{1}{g(x)}=\frac{1}{\beta}\] すなわち \[\forall \epsilon>0 \exists \delta’>0 \left[0<|x-a|<\delta’ \Longrightarrow \left|\frac{1}{g(x)}-\frac{1}{\beta}\right|<\epsilon \right]\]
であった.ここで任意の\(\epsilon\)に対応する\(\delta’\)として\(\delta\)ととることにする.すると,この\(\delta\)のもとで
\[0<|x-a|<\delta \Longrightarrow \left|\frac{1}{g(x)}-\frac{1}{\beta}\right|<\epsilon\]
が成り立つかどうか,すなわち
\[
\begin{align*}
&\left|\frac{1}{g(x)}-\frac{1}{\beta}\right|=\left|\frac{\beta-g(x)}{\beta g(x)}\right|=\frac{|g(x)-\beta|}{|\beta| |g(x)|}
\end{align*}
\]
より
\[0<|x-a|<\delta \Longrightarrow \frac{|g(x)-\beta|}{|\beta| |g(x)|}<\epsilon\]
が成り立つかどうかが問題となるが,これは仮定\((\ast)\),\((\ast\ast)\)より
\[\frac{|g(x)-\beta|}{|\beta| |g(x)|}<\frac{\epsilon}{|\beta|\frac{|\beta|}{2}}=\frac{2\epsilon}{\beta^2}\]
となり確かに成り立つ.(証明終)

★解析学演習

\(\displaystyle \lim_{x \rightarrow a}g(x)=\beta\)で\(\beta \neq 0\)である.このとき,適当な\(\delta > 0\)を決めると,\(0 < |x-a| < \delta\)のすべての\(x\)について,\(g(x)\)は\(\beta\)と同符号であることを証明せよ.
(田島一郎解析入門P24問15)

(証明)

仮定\(\displaystyle \lim_{x \rightarrow a}g(x)=\beta\)より\[\forall \epsilon >0 \exists \delta \big[0<|x-a|<\delta \Longrightarrow |g(x)-\beta| < \epsilon \big]\] \(\beta > 0\)のときと\(\beta < 0\)のときとで場合分けをして考える.

\(\beta > 0\)のとき
仮定より,\(\epsilon\)は任意なので,\(\epsilon = \frac{|\beta|}{2}\)ととることにする.この\(\epsilon = \frac{|\beta|}{2}\)に対応して\(\delta\)が定まり,\(0<|x-a|<\delta\)をみたす\(x\)に対して\(|g(x)-\beta| < \epsilon= \frac{|\beta|}{2} ~\cdots(\ast)\)が成り立つ.\((\ast)\)を変形すると
\[
\begin{align*}
(\ast)&\Longleftrightarrow |g(x)-\beta| < \frac{|\beta|}{2}\\
&\Longleftrightarrow \beta – \frac{|\beta|}{2} < g(x) < \beta + \frac{|\beta|}{2}\\
&\Longleftrightarrow |\beta| – \frac{|\beta|}{2} < g(x) < |\beta| + \frac{|\beta|}{2}\\
&\Longleftrightarrow 0 < \frac{|\beta|}{2} < g(x) < \frac{3}{2}|\beta|\\
\end{align*}
\]
したがって\(g(x)\)は正.

\(\beta < 0\)のとき
\(\beta > 0\)のときと同様に\(\epsilon = \frac{|\beta|}{2}\)ととると,同様の議論により,
\[\beta – \frac{|\beta|}{2} < g(x) < \beta + \frac{|\beta|}{2}\]
を得る.しかし今回は\(\beta < 0\)であるから\(\beta = -|\beta|\)であることに注意して変形すると,
\[
\begin{align*}
&~\beta – \frac{|\beta|}{2} < g(x) < \beta + \frac{|\beta|}{2}\\
\Longleftrightarrow &-|\beta| – \frac{|\beta|}{2} < g(x) < -|\beta| + \frac{|\beta|}{2}\\
\Longleftrightarrow &-\frac{3}{2}|\beta| < g(x) < -\frac{|\beta|}{2} < 0
\end{align*}
\]
したがって\(g(x)\)は負.(証明終)

★解析学演習

\(a>1\)のとき,次のことを証明せよ.ただし,\(n\)は自然数である.
\[(1)~\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{a^n}{n}=+\infty\hspace{25mm}(2)~\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{a^n}{n^2}=+\infty\]
(田島一郎解析入門P19問11)

\(a>1\)であるから,\(a=1+h~(h>0)\)とおくと,
\[
\begin{align*}
a^n&=(1+h)^n\\
&={}_n\mathrm{C}_0h^0+{}_n\mathrm{C}_1h^1+{}_n\mathrm{C}_2h^2+{}_n\mathrm{C}_3h^3+\cdots+{}_n\mathrm{C}_nh^n\\
&=1+nh+\frac{n(n-1)}{2}h^2+\frac{n(n-1)(n-2)}{6}h^3+\cdots+\frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-(n-1))}{n!}
\end{align*}
\]
(証明)

\((1)\)(\(\frac{n(n-1)}{2}h^2\)の項に目をつけて)\(n\geq 2\)とする.
\[
\begin{align*}
\frac{a^n}{n}&=\frac{1}{n}+h+\frac{(n-1)}{2}h^2+\frac{n(n-1)(n-2)}{6}h^3+\cdots\\
&>\frac{(n-1)}{2}h^2=(n-1)\frac{h^2}{2}
\end{align*}
\]
より
\[\frac{a^n}{n}>(n-1)\frac{h^2}{2}\]
であるから,\(\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty}(n-1)\frac{h^2}{2}=+\infty\)すなわち
\[\forall K>0 \exists m \left[n>m \Longrightarrow (n-1)\frac{h^2}{2} > K \right]\]
が示せればよい.つまり任意の\(K\)に対して
\[m\frac{h^2}{2} > K,~(m+1)\frac{h^2}{2} > K,~(m+2)\frac{h^2}{2} > K,\cdots\tag{\(\ast\)}\]
が成り立つような\(m\)が提示できればよい.

ここで,アルキメデスの公理より,
\[\forall K \exists N \left[N\frac{h^2}{2} > K\right]\]
これは,任意の\(K\)に対して
\[N\frac{h^2}{2} > K,~(N+1)\frac{h^2}{2} > K,~(N+2)\frac{h^2}{2} > K,~\cdots\]
が言えるということに他ならない.したがって,\((\ast)\)をみたす\(m\)としてこの\(N\)を提示すればよい.(証明終)

\((2)\)(\(\frac{n(n-1)(n-2)}{6}h^3\)の項に目をつけて)\(n \geq 3\)とする.
\[
\begin{align*}
\frac{a^n}{n^2}&=\frac{1}{n^2}+h+\frac{(n-1)}{2n^2}h^2+\frac{n(n-1)(n-2)}{6n^2}h^3+\cdots\\
&>\left(1-\frac{1}{n}\right)(n-2)\frac{h^3}{6}\\
&\geq\left(1-\frac{1}{3}\right)(n-2)\frac{h^3}{6}=(n-2)\frac{h^3}{9}\\
\end{align*}
\]
より
\[\frac{a^n}{n^2}>(n-2)\frac{h^3}{9}\]
であるから,\(\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty}(n-2)\frac{h^3}{9}=+\infty\)すなわち
\[\forall K>0 \exists m \left[n>m \Longrightarrow (n-2)\frac{h^3}{9} > K \right]\]
が示せればよい.つまり任意の\(K\)に対して
\[(m-1)\frac{h^2}{2} > K,~m\frac{h^2}{2} > K,~(m+1)\frac{h^2}{2} > K,\cdots\tag{\(\ast\)}\]
が成り立つような\(m\)が提示できればよい.

ここで,アルキメデスの公理より,
\[\forall K \exists N \left[N\frac{h^3}{9} > K\right]\]
これは,任意の\(K\)に対して
\[N\frac{h^3}{9} > K,~(N+1)\frac{h^3}{9} > K,~(N+2)\frac{h^3}{9} > K,~\cdots\]
が言えるということに他ならない.したがって,\((\ast)\)をみたす\(m\)として\(N+1\)と提示すればよい.(証明終)

★解析演習(アルキメデスの公理)

\(a\)が正の定数で,\(n\)が自然数ならば,
\[\text{\(n \rightarrow \infty\)のとき\(\frac{a}{n} \rightarrow 0\),すなわち\(\lim_{n \rightarrow \infty}\frac{a}{n}=0\)}\]
であることをアルキメデスの公理から導け.(田島一郎 解析入門 P19問10)

(証明)
示したいことは,\(a>0,~n\in \mathbb{N}\)であるから,
\[
\begin{align*}
&\forall \epsilon>0 \exists m \left[n>m \Longrightarrow \left|\frac{a}{n}-0\right|<\epsilon \right]\\ \Longleftrightarrow~&\forall \epsilon>0 \exists m \left[n>m \Longrightarrow \frac{a}{n}<\epsilon \right]\\ \Longleftrightarrow~&\forall \epsilon>0 \exists m \big[n>m \Longrightarrow n\epsilon >a \big]\tag{\(\ast\)}\\
\end{align*}
\]である.

ここで,アルキメデスの公理とは,\(h\)を正の定数として,
\[\forall K>0 \exists N \big[n>N \Longrightarrow nh > K \big]\]
というものであった.

今,この公理における大前提として与えられている正の定数\(h\)を\(\epsilon\)であるとする.すなわち
\[\forall K>0 \exists N \big[n>N \Longrightarrow n\epsilon > K \big]\]
\(K\)は任意であるから,\(K=a\)とすると,この\(a\)に対応して\(N\)が存在して,
\[n>N \Longrightarrow n\epsilon > a\]
が成り立つと言える\((\ast\ast)\).

ここで改めて\((\ast)\)について考える.\(\epsilon\)は任意に与えられるわけだが,いちど与えらえた以上それは定数であることに注意すると,結局
\[n>m \Longrightarrow n\epsilon >a\]
をみたす\(m\)の存在を示せばよいが,これは\((\ast\ast)\)により\(m=N\)と提示できる.(証明終)

★解析学演習(はさみうちの原理)

\(x_n \leq a_n \leq y_n\)であって,\(\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty}x_n=\lim_{n \rightarrow \infty}y_n=a\)であれば,\(\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty}a_n=a\)であることを証明せよ.(はさみうちの原理)
(田島一郎 解析入門 P14問7)

(証明)

仮定より,
\[\forall \epsilon >0 \exists N_1\big[n>N_1 \Longrightarrow |x_n-a|<\epsilon \big]\] \[\forall \epsilon >0 \exists N_2\big[n>N_2 \Longrightarrow |y_n-a|<\epsilon \big]\] であるから,\(N=max\{N_1,~N_2\}\)ととれば,\(n>N\)のとき,
\[|x_n-a|<\epsilon,\quad|y_n-a|<\epsilon\]
すなわち
\[a-\epsilon < x_n < a+\epsilon,\quad a-\epsilon < y_n < a+\epsilon\]
これと仮定\(x_n \leq a_n \leq y_n\)から
\[a-\epsilon < x_n \leq a_n \leq y_n < a+\epsilon\]
より
\[a-\epsilon < a_n < a+\epsilon \Longleftrightarrow |a_n-a|<\epsilon\] が言える.以上まとめると, \[\forall \epsilon >0 \exists N\big[n>N \Longrightarrow |x_n-a|<\epsilon \big]\]
すなわち
\[\lim_{n \rightarrow \infty}a_n=a\]
となる.(証明終)

★解析学演習

\(\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}x_n=a,~\lim_{n\rightarrow \infty}y_n=b\)のとき,\[(1)\quad\lim_{n\rightarrow \infty}x_ny_n=ab\hspace{30mm}(2)\quad\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{x_n}{y_n}=\frac{a}{b}\]を示せ.\((2)\)では\(y_n\neq 0,~b\neq 0\)とする.

仮定は
\[\forall \epsilon>0 \exists N_1 \big[n>N_1 \Longrightarrow |x_n-a|<\epsilon\big]\tag{ア}\] および \[\forall \epsilon>0 \exists N_2 \big[n>N_2 \Longrightarrow |y_n-b|<\epsilon\big]\tag{イ}\]
である.

\((1)\)の証明(割愛)

\((2)\)の証明

\(\displaystyle \frac{x_n}{y_n}=x_n\cdot\frac{1}{y_n}\)だから,もし\(\displaystyle\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{1}{y_n}=\frac{1}{b}\)が証明できれば,\((2)\)より
\[\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{x_n}{y_n}=\lim_{n\rightarrow \infty}x_n\cdot\frac{1}{y_n}=a\cdot\frac{1}{b}=\frac{a}{b}\]
となり証明が完了する.以下,その証明:

示したいことは
\[\forall \epsilon>0 \exists N \left[n>N \Longrightarrow \left|\frac{1}{y_n}-\frac{1}{b}\right|<\epsilon\right]\]
である.一部計算すると,
\[
\begin{align*}
\left|\frac{1}{y_n}-\frac{1}{b}\right|&=\left|\frac{b-y_n}{by_n}\right|=\frac{|y_n-b|}{|b||y_n|}
\end{align*}
\]
より
\[\forall \epsilon>0 \exists N \left[n>N \Longrightarrow \frac{|y_n-b|}{|b||y_n|}<\epsilon\right]\tag{\(\ast\)}\]
である.

任意に与えれらた\(\epsilon\)に対して\(n>N_2\)とすれば,仮定(イ)により\(\displaystyle \frac{|y_n-b|}{|b||y_n|}<\frac{\epsilon}{|b||y_n|}\)と言えるが,しかしそれだけでは分母に\(y_n\)(\(n\)の式)が残っていて\(\epsilon\)(を含む定数)にならない.そこで仮定(イ)において,\(\epsilon\)として\(\displaystyle \epsilon < \frac{|b|}{2}\)をみたす\(\epsilon\)をとる.この\(\epsilon\)に対応する番号\(n\)を\(N’\)とする.すると\(n>N’\)をみたす\(n\)に対して
\[|y_n-b|<\epsilon<\frac{|b|}{2}\]
すなわち
\[b-\frac{|b|}{2} < y_n < b+\frac{|b|}{2}\]
が成り立つ.この式を以下のように考え,変形する:

\(b\geq 0\)のとき,\(b\)の\(\epsilon(<\frac{|b|}{2})\)近傍はすべて正だからそこに入る\(y_n~(n>N’)\)たちももちろん正.ゆえに\(y_n=|y_n|\).また,\(b=|b|\).したがって,
\[
\begin{align*}
&b-\frac{|b|}{2} < y_n < b + \frac{|b|}{2}\\
\Longleftrightarrow~&|b|-\frac{|b|}{2} < |y_n| < |b| + \frac{|b|}{2}\\
\Longleftrightarrow~&\frac{|b|}{2} < |y_n| < \frac{3}{2}|b|
\end{align*}
\]

\(b < 0\)のとき,\(b\)の\(\epsilon(<\frac{|b|}{2})\)近傍はすべて負だからそこに入る\(y_n~(n>N’)\)たちももちろん負.ゆえに\(-y_n=|y_n|\).また,\(b=-|b|\).したがって,
\[
\begin{align*}
&b-\frac{|b|}{2} < y_n < b + \frac{|b|}{2}\\
\Longleftrightarrow~&-|b|-\frac{|b|}{2} < -|y_n| < -|b| + \frac{|b|}{2}\\
\Longleftrightarrow~&-\frac{3}{2}|b| < -|y_n| < -\frac{|b|}{2}\\
\Longleftrightarrow~&\frac{|b|}{2} < |y_n| < \frac{3}{2}|b|
\end{align*}
\]

つまり\(b\geq 0\),\(b<0\)に関わらず\(\frac{|b|}{2} < |y_n| < \frac{3}{2}|b|\)が成り立つ.整理すると,
\[\forall \epsilon <\frac{|b|}{2}\exists N’\left[n>N’ \Longrightarrow \frac{|b|}{2} < |y_n| < \frac{3}{2}|b|\right]\tag{ウ}\]
が言えたことになる.この準備のもとで,改めて\((\ast)\)を示す.

(イ),(ウ)により,任意の\(\epsilon < \frac{|b|}{2}\)に対して,\(N’\)が存在し,\(n>N’\)をみたす\(n\)について,次の式が成り立つ:
\[\frac{|y_n-b|}{|b||y_n|}<\frac{\epsilon}{|b|\cdot \frac{|b|}{2}}=\frac{2\epsilon}{|b|^2}\]

すなわち
\[\forall \epsilon<\frac{|b|}{2} \exists N’ \left[n>N’ \Longrightarrow \left|\frac{1}{y_n}-\frac{1}{b}\right|<\frac{2\epsilon}{|b|^2}\right]\]
したがって
\[\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{1}{y_n}=\frac{1}{b}\]

(証明終)

★解析学演習

すべての\(n\)で\(x_n>p\),かつ\(\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}x_n=a\)ならば\(a\geq p\)であることを証明せよ.
(田島一郎 解析入門 P10問3(2))

(証明)

背理法で示す.与えられた命題は
\[\left(\forall n[x_n>p]\land \lim_{n\rightarrow \infty}x_n=a \right)\Longrightarrow a \geq p\]
である.この命題の否定をとると
\[\overline{\left(\forall n[x_n>p]\land \lim_{n\rightarrow \infty}x_n=a \right)\Longrightarrow a \geq p}\]
であるから,
\[
\begin{align*}
&\overline{\left(\forall n[x_n>p]\land \lim_{n\rightarrow \infty}x_n=a \right)\Longrightarrow a \geq p}\\
\Longleftrightarrow~&\overline{\overline{\forall n[x_n>p]\land \lim_{n\rightarrow \infty}x_n=a} \lor a \geq p}\\
\Longleftrightarrow~&\forall n[x_n>p]\land \lim_{n\rightarrow \infty}x_n=a \land a < p\\ \Longleftrightarrow~&\forall n[x_n>p]\land \left(\forall \epsilon>0 \exists N\big[n>N \Longrightarrow |x_n-a|<\epsilon\big]\right) \land a < p\\
\end{align*}
\]

\(a<p\)より\(p-a>0\)だから,\(\epsilon=p-a\)ととると,\(n>N\)をみたす\(n\)に対して
\[|x_n-a|<p-a\]
すなわち
\[
\begin{align*}
|x_n-a|<p-a~\Longleftrightarrow~&a-(p-a)< x_n <a+(p-a)\\
\Longleftrightarrow~&2a-p< x_n < p
\end{align*}
\]
が成り立つが,これは\[\forall n[x_n>p]\]に反する.(証明終)

★上に有界で単調増加な数列は収束する

上に有界で単調増加な数列\[a_1\leq a_2 \leq a_3 \leq \cdots \leq a_n\leq \cdots\]は収束する.

証明

上に有界であるから,上界が存在し,したがって上限(最小の上界)が存在する(なぜ?).この上限を\(c\)とおき,この\(c\)に収束することを以下に示す.

任意の\(\epsilon>0\)に対して,\(c-\epsilon\)を考える.今,\(c\)が上限,すなわち最小の上界であるから,\(c-\epsilon\)はもはや上界ではない.したがって,\(c-\epsilon\)より大きく\(c\)以下の項(☆)が存在する.
\[a_1\leq a_2 \leq a_3 \leq \cdots \leq a_n \leq \cdots \leq c-\epsilon < \text{(☆)} \leq c\]
(☆)の項たちを
\[a_N \leq a_{N+1} \leq a_{N+2} \leq \cdots\]
とおく.すると,
\[c-\epsilon < a_N \leq a_{N+1} \leq a_{N+2} \leq \cdots \leq c < c+\epsilon \]
すなわち,\(N\)以上の\(i\)について
\[|a_{i}-c|<\epsilon\] が成り立つ.また,この\(N\)は,\(\epsilon\)に応じて定まる(存在する)ので,結局 \[\forall \epsilon>0 \exists N \big[i > N \Longrightarrow |a_{i}-c|<\epsilon\big]\]
と言える.したがって
\[\lim_{n\rightarrow \infty}a_n=c\]
よって数列\(\{a_n\}\)は収束する.(証明終)

なぜイプシロン・デルタ(エヌ)論法が必要なのか

大学で微分積分学または解析学で最初にぶち当たる関門,\(\epsilon-\delta\)論法(\(\epsilon-N\)論法).まずこれが理解できず相当ゲンナリするひとは結構多いと思います.自分もそうでした.かつて理解するのに苦労した一学生としてひとことメモしておこうと思います.

理解の第一歩は,そもそもなぜそのような定義が必要なのか?を感じることだと思います.

高校の教科書では数列の極限を,

数列\(\{a_n\}\)において,\(n\)を限りなく大きくするとき,\(a_n\)がある値\(\alpha\)に限りなく近づくならば,\(\{a_n\}\)は\(\alpha\)に収束する,または\(\{a_n\}\)の極限は\(\alpha\)であるといい,\[\lim_{n\rightarrow \infty}a_{n}=\alpha\]と書く.

と定義しています.この定義に従えば,例えば数列\(\{1+\frac{1}{n}\}\)において,\(n\)を限りなく大きくするとき,\(1+\frac{1}{n}\)は\(1\)に限りなく近づいているので,\(\{1+\frac{1}{n}\}\)は\(1\)に収束すると言えて,\[\lim_{n\rightarrow \infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)=1\]と書ける,ということになります.

一見なんの問題もないように見えますし,高校数学の問題を解く上では何の問題もありません.しかし,上の定義はよく考えてみるとかなり怪しい.

例えば,数列\(\{1+\frac{1}{n}\}\)において,\(n\)を限りなく大きくするとき,\(1+\frac{1}{n}\)は(\(1\)そのものにならない以上)\(0\)にだって限りなく近づいている,とも言えるわけで,ならば上の定義に従って\[\lim_{n\rightarrow \infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)=0\]とも書ける,ということになります.例えるならば一関から仙台へ向かってる人は,仙台に到着しない限り,「東京へ向かっている」とも言えてしまう,ということです.

他にも,

\(\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}a_n=\alpha,~\lim_{n\rightarrow \infty}b_n=\beta\)のとき,\[\lim_{n\rightarrow \infty}(a_n\pm b_n)=\alpha\pm\beta\]とか\[\lim_{n\rightarrow \infty}ka_n=k\lim_{n\rightarrow \infty}a_n\]とか\[\lim_{n\rightarrow \infty}a_nb_n=\alpha\beta,~\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{a_n}{b_n}=\frac{\alpha}{\beta}\]さらに「はさみうちの原理」などを数学Ⅲの序盤に「極限の性質」として学びましたがいざこれらを証明するとなるとどうすればいいのでしょうか(「原理」と名前がついていますがこれは証明すべき定理です).

百歩譲ってこれらは「感覚的に明らか」と認めるにしても,例えば\(\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}x_n=0\)のとき,\[\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{x_1+x_2+x_3+\cdots+x_n}{n}=0\]はどうでしょう.これは感覚的に明らかでもないし,上の定義で証明しようとしても完全にお手上げです.

つまり上の高校教科書の定義は数学の定義としては不十分ということです.このような要請のもと,\(\epsilon-\delta\)論法(今は数列なので\(\epsilon-N\)論法)なる極限の新たな定義が必要になります.

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