「存在することを示せ」と言われたら 

(数学A,数学B)

「ツチノコの存在を証明しろ」と言われたら,どうすればいいか。
…それは簡単,ツチノコを捕まえて連れてくればOK!

ここで,数学Aの「整数の性質」で登場した「整数の割り算」について見てみます。

一般に,次のことが成り立つ。

整数\(a\)と正の整数\(b\)について\[a=qb+r,~0\leq r < b\]となる整数\(q,r\)はただ\(1\)通りに定まる。

『高等学校 数学A』数研出版

 
「定まる」とは要は「存在する」ということですが,いずれにせよ初めて学んだときは感覚的に当たり前すぎて疑問にすら思わなかったと思います。しかし,いざこれを証明しろと言われたらどうしたらいいでしょう…?

ずばり,実際にもってこよう!(以下では簡単のために\(a\geq 0\)とし,また一意性の部分はカットします)

\(a,b\)を\(a \geq 0,b>0\)を満たす整数とする.このとき,
\[a=qb+r,~0\leq r < b\tag{\(\ast\)}\]を満たす整数\(q,r\)が存在することを示せ.

証明

\(b(>0)\)を固定して,任意の\(a(\geq 0)\)について主張が成り立つことが示せればよい.

\(a < b\)であるとき:
\(q=0,r=a\)とすればよい.

\((0 <)b \leq a\)であるとき:
数学的帰納法で示す.\(a\)より小さい非負の整数で主張が成り立つとする.\(b>0\)より\(b \leq a \Leftrightarrow 0 \leq a-b (< a)\)であるから,\(a-b\)は\(a\)より小さい非負の整数である.したがって仮定により,\begin{align*}
&\exists q^{\prime},r^{\prime}\in \mathbb{Z}[a-b = q^{\prime}b+r^{\prime},0 \leq r^{\prime} \leq b]\\
\Longleftrightarrow~&\exists q^{\prime},r^{\prime}\in \mathbb{Z}[a = (q^{\prime}+1)b+r^{\prime},0 \leq r^{\prime} \leq b]
\end{align*}よって\((\ast)\)を満たす\(q,r\)として\(q=q^{\prime}+1,~r=r^{\prime}\)ととればよい.
これで,\(a\)より小さい非負の整数で主張が成り立てば,\(a\)でも主張が成り立つことが分かった.
\(a=0\)のときは,\(q=0,r=0\)とすればよい.

以上により任意の\(a(\geq 0)\)に対して\((\ast)\)を満たす\(q,r \in \mathbb{Z}\)が存在することが示せた.

証明終

現物もってくれば文句ないだろっていう。

こんなところで数学Bで学んだ(学ぶ)数学的帰納法が登場するのも面白いですね。しかも直前の番号のみを仮定する教科書の定番タイプではなく,直前以前の番号すべてを仮定するタイプの帰納法です。

パズルみたいな学校数学もまあまあ面白いけど,個人的にはこういう緻密な調査の方がすきだなあ。点数にならないけど。

 

数学的帰納法

前回の「任意」について思い出したことをひとつ.

次のような命題の証明について考えてみます.\(p(n)\)は条件,\(n\)を自然数とします.

\[\forall n~p(n) \tag{\(\ast\)}\]

この命題は,
\[\text{どんな\(n\)についても\(p(n)\)が真である}\]
ということですから,
\[p(1),~p(2),~p(3),~p(4),~\cdots~\text{が真である}\]
ことを証明する,ということです.(これが目標).これを証明するには,どうすればよいかを考えます.

まず,\[p(1)\text{が真である}\tag{A}\]ことを示します.続いて,\[p(2),p(3),\cdots \text{が真である}\]ことも同様に示していけばよい・・・と言いたいところですが,当然,無限回の考察は現実的には不可能です。そこで,天下りですが次の命題を考えます.

\[p(n) \Longrightarrow p(n+1)\tag{B}\]

この命題は,
\[\forall n[p(n) \longrightarrow p(n+1)]\]
すなわち,
\[\text{すべての\(n\)について\(p(n) \rightarrow p(n+1)\)が成り立つ}\]
ということですから,\(n=1,2,3,\cdots\)と代入して

\[
\begin{cases}
&\text{\(p(1) \rightarrow p(2)\)が成り立つ}\\
&\text{\(p(2) \rightarrow p(3)\)が成り立つ}\\
&\text{\(p(3) \rightarrow p(4)\)が成り立つ}\\
&\cdots
\end{cases}\tag{B’}
\]

と言い換えられることになります.この命題(B)(すなわち(B’))が証明できたとしましょう.そのとき,どのようなこことがわかるか,ご利益をみてみます.

「\(p(1) \rightarrow p(2)\)が成り立つ」について見てみます.真理値表
\(p(1) \rightarrow p(2)\)が真となる行に着目すると,次の①②③の3通りの状況が考えられます.


しかし,\(p(1)\)が真であることは既に(A)で確認済みなので,\(p(1)\)の列が偽となる②と③の状況は起こり得ず,結局①の状況しかありえません。この①の行を眺めると,\(p(2)\)も真であることが分かります.これで,\(p(1)\)と\(p(2)\)が真であることがわかりました.

同様に考えて,
「\(p(2) \rightarrow p(3)\)が成り立つ」ことから,\(p(3)\)も真となります.
「\(p(3) \rightarrow p(4)\)が成り立つ」ことから,\(p(4)\)も真となります.
「\(p(4) \rightarrow p(5)\)が成り立つ」ことから,\(p(5)\)も真となります.

となり,結局,\[p(1),~p(2),~p(3),~p(4),~\cdots~\text{が真である}\]であること,すなわち冒頭の命題\[\forall n~p(n) \tag{\(\ast\)}\]が証明されました.命題(B)を示すご利益は,ここにあったというわけです.

以上をまとめると,\((\ast)\)を証明するためには,命題(A)かつ(B),すなわち\[p(1) \land (p(n) \Rightarrow p(n+1))\]
を確認すればよい,ということがわかります.すなわち,

数学的帰納法\[p(1) \land \left(p(n) \Rightarrow p(n+1)\right) \Longrightarrow \forall n~p(n)\]

が言えることになります.これを数学的帰納法といいます.

ちなみに教科書では,「任意(\(\forall\))」を含む主張(述語論理)を頑なに扱わないため,この数学的帰納法を扱う際も

数学的帰納法を用いて,次の等式を証明せよ.\[1+2+3+\cdots+n=\frac{1}{2}n(n+1)\]

出典:高等学校 数学Ⅱ 数研出版

 

という,本来あるべき「\(\forall\)」「任意の」「すべての」という記述のない主張になっています.しかし,上で見たように,ここでは「任意の」「すべての」が主張の根幹であって,それを書かなければ何をさせたいのか,何をすべきなのかそのアウトラインが全然見えてこないと思うのです.だから,ここは

数学的帰納法を用いて,任意の自然数\(n\)に対して次の等式が成り立つことを証明せよ.\[1+2+3+\cdots+n=\frac{1}{2}n(n+1)\]

と出題すべきだと僕は思う.これを意図しつつも書いていないということは「空気読めよ」ってことなんでしょうか(これとかもそう…!).でも初めて学ぶ高校生ががそんなことわかりますかね….任意だのなんだの考えずにとりあえず「型」通りにやれってことかな?まあ,たしかにそっちの方が「あたりさわりなく」できるタイプは量産できるかもしれませんが.教科書のこういうところに個人的に?と思ってしまいます.

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