2次方程式の共通解問題(その2・つづき)

\[(P\Rightarrow Q \lor R) \land \overline{Q\Rightarrow P} \land (R \Rightarrow P)\Rightarrow~(P \Leftrightarrow R)\]

証明

\(P\Rightarrow Q \lor R,\overline{Q\Rightarrow P},R \Rightarrow P\)となる行,すなわち\(P\rightarrow Q \lor R,\overline{Q\rightarrow P},R \rightarrow P\)が真となる行(上から6行目)に着目すると,\((P\rightarrow Q \lor R) \land \overline{Q\rightarrow P} \land (R \rightarrow P)\)と\(P \leftrightarrow R\)の真理値(青〇)が一致している.したがって\[(P\Rightarrow Q \lor R) \land \overline{Q\Rightarrow P} \land (R \Rightarrow P)\Longrightarrow~(P \Leftrightarrow R)\]を得る.

証明終

(関連:2次方程式の共通解問題(その2)

2次方程式の共通解問題(その2)

\(2\)つの\(2\)次方程式\(x^2-3x+m-1=0,x^2+(m-2)x-2=0\)が共通な実数解をただ\(\)1つもつとき,定数\(m\)の値とその共通解を求めよ.

解答

\begin{align*}
&x^2-3x+m-1=0,x^2+(m-2)x-2=0\text{が共通な実数解をただ1つもつ}\\
\Longrightarrow~&x^2-3x+m-1=0,x^2+(m-2)x-2=0\text{が共通な実数解をもつ}\\
\Longleftrightarrow~&\exists x
\begin{cases}
x^2-3x+m-1=0\\
x^2+(m-2)x-2=0
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists x
\begin{cases}
x^2-3x+m-1=0\\
x^2+(m-2)x-2-(x^2-3x+m-1)=0
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists x
\begin{cases}
x^2-3x+m-1=0\\
(m+1)(x-1)=0\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists x
\begin{cases}
x^2-3x+m-1=0\\
m=-1\lor x=1
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists x [x^2-3x+m-1=0 \land (m=-1 \lor x=1)]\\
\Longleftrightarrow~&\exists x [(x^2-3x+m-1=0 \land m=-1) \lor (x^2-3x+m-1=0 \land x=1)]\\
\Longleftrightarrow~&\exists x (x^2-3x-2=0 \land m=-1) \lor \exists x(1^2-3\cdot 1+m-1=0 \land x=1)]&\\
\Longleftrightarrow~&\exists x \left[x=\frac{3\pm \sqrt{17}}{2} \land m=-1\right] \lor \exists x[m=3 \land x=1]\\
\Longleftrightarrow~&\left(\exists x \left[x=\frac{3\pm \sqrt{17}}{2}\right] \land m=-1 \right) \lor (m=3 \land \exists x[x=1])\\
\Longleftrightarrow~&m=-1 \lor m=3
\end{align*}
(\(\exists x \left[x=\frac{3\pm \sqrt{17}}{2}\right],\exists x[x=1]\)は恒真命題)二行目が同値変形でないことに注意すると,結局,
\begin{align*}
x^2-3x+m-1=0,x^2+(m-2)x-2=0\text{が共通な実数解をただ1つもつ}&\\
\Longrightarrow~m=-1 \lor m=3&
\end{align*}
つまり得られた条件は必要条件に過ぎないので,十分性を調べる必要があります。そこで,逆に\(m=-1\)のときと\(m=3\)のときそれぞれの場合において「与えられた\(2\)次方程式が共通な実数解をただ1つもつ」ことを調べることにします。

\(m=-1\)のとき,与えられた\(2\)つの方程式は\(x^2-3x-2=0\)と\(x^2-3x-2=0\)となり,どちらの解も\(x=\frac{3\pm\sqrt{17}}{2}\)であり「ただ\(1\)つの」共通解を持つとは当然いえません。他方,\(m=3\)のときは\(x^2-3x+2=0\)と\(x^2+x-2=0\)となり,これらを解くとそれぞれの解は\(x=-2\)と\(x=-1\),そして\(x=-2\)と\(x=1\)となりこれなら「ただ\(1\)つの」共通解\(x=-2\)をもつと言えます。したがって答えは\[m=3\](で,共通解は\(x=-2\))となります。

解答終

結局これは,①必要条件を調べ,次に②その条件が十分条件となっているかどうかを調べる,という2つの段階に分けるというのが大まかなシナリオです(①は同値性を気にすることなくとりあえず右向きの矢印だけ気にすればいいから気楽)。このような方針は問題を解く際にしばしば見られるものです。実際,教科書の軌跡の解説などではお馴染みですね。僕は受験生時代,この問題の解説にはどことない気持ち悪さを感じつつもただただ解法パターンとして覚えることしかできず,細かいことは見て見ぬふりをしていました。今思えばその「気持ち悪さ」は結局論理を理解していなかったのが原因だと思います。とはいえ,学校で扱わないのだからこの手の話が分からんのはアタリマエ。ってかそもそも扱ってないことを問題にする時点でおかしくないか…?

先日,授業でこの\(2\)次方程式の共通解問題を扱い,例によって上のような解説を(もちろん論理式でなく日本語で)していてふと思いました。上の議論はつまり「\(P\Longrightarrow Q \lor R\)が言えました,そして\(Q\rightarrow P\)が偽(\(\overline{Q\rightarrow P}\)が真)で,\(R \rightarrow P\)が真であることが分かりました,だから\(P \Longleftrightarrow R\)と言えるよね」というもの,つまり\[(P\Rightarrow Q \lor R) \land \overline{Q\Rightarrow P} \land (R \Rightarrow P)\Longrightarrow~(P \Leftrightarrow R)\]ですが(※),そもそもこの命題は正しいのでしょうか…?僕自身この変形を普段から無意識に行っていましたが…よくよく考えれば疑問です。このことを調べてみます。(つづく

(関連:2次方程式の共通解問題(その1)

※(21/9/16) \(\Leftrightarrow\)を\(\Rightarrow\)に訂正しました。R君ご指摘ありがとうございます。

かつとまたは,どっち?

不等式\[4x^2+5x-12\leq 3|x|\]を解け.

解答1

\((\mathrm{i})~\)\(x \geq 0\)のとき\(|x|=x\)であるから,
\begin{align*}
&4x^2+5x-12\leq 3x\\
&4x^2+2x-12\leq 0\\
&2x^2+x-6\leq 0\\
&(2x-3)(x+2)\leq 0\\
&-2\leq x \leq \frac{3}{2}\\
\end{align*}\(x \geq 0\)との共通部分を考え,\(0 \leq x \leq \frac{3}{2}\tag{1}\)

\((\mathrm{ii})~\)\(x < 0\)のとき\(|x|=-x\)であるから,
\begin{align*}
&4x^2+5x-12\leq -3x\\
&4x^2+8x-12\leq 0\\
&x^2+2x-3\leq 0\\
&(x+3)(x-1)\leq 0\\
&-3\leq x \leq 1\\
\end{align*}\(x < 0\)との共通部分を考え,\(-3 \leq x < 0\tag{2}\)

\((1),(2)\)との和集合を考え,\(-3 \leq x \leq \frac{3}{2}\)

解答終

よく見るいたって普通の解答ですが,生徒に「なぜ\((\mathrm{i}),(\mathrm{ii})\)では『かつ』なのに最後は『または』なんですか?『かつ』じゃだめなんですか?」と問われたらなんと答えらたいいのだろう?教科書にはもちろんそれらしい記述は一切はないから例によって頼りにならない。説明がないのだから,結局「そういうものだから覚えろ」と言うかそもそも(生徒の感覚に任せ)触れないかのどちらかになると思う。

解答2

\begin{align*}
&4x^2+5x-12\leq 3|x|\\
\Longleftrightarrow~&4x^2+5x-12\leq 3|x| \land ( x \geq 0 \lor x < 0)\\ \Longleftrightarrow~&(4x^2+5x-12\leq 3|x| \land x \geq 0) \lor (4x^2+5x-12\leq 3|x| \land x < 0)\\ \Longleftrightarrow~&(4x^2+5x-12\leq 3x \land x \geq 0) \lor (4x^2+5x-12\leq -3x \land x < 0)\\ \Longleftrightarrow~&(2x^2+x-6 \leq 0 \land x \geq 0) \lor (x^2+2x-3\leq 0 \land x < 0)\\ \Longleftrightarrow~&( -2\leq x \leq \frac{3}{2} \land x \geq 0) \lor (-3 \leq x \leq 1 \land x < 0)\\ \Longleftrightarrow~& 0 \leq x \leq \frac{3}{2}\lor -3 \leq x < 0\\ \Longleftrightarrow~&-3 \leq x \leq \frac{3}{2} \end{align*} 解答終

結局,やっていることが,恒真命題の追加と分配法則と分かり,これなら先のような疑問を挟む余地がありません。

\(*\)\(*\)\(*\)

教科書ってこの種のその先はいう必要ないですよね的な部分があるからいまいち信用できないし,またそれを妄信する人も理解できない。教科書の解答こそが理想の解答だとかほんと勘弁。

三角不等式

次の不等式を証明せよ.
\[\displaystyle \sum_{i=1}^{n}|x_i+y_i|^p \leq \sum_{i=1}^{n}|x_i||x_i+y_i|^{p-1}+\sum_{i=1}^{n}|y_i||x_i+y_i|^{p-1}\]

高校数学の範囲的には数学Ⅰ(絶対値),数学Ⅱ(不等式の証明,三角不等式),数学B(シグマ計算)あたりかな?

証明
\begin{align*}
|x_i+y_i|^p = &|x_i+y_i||x_i+y_i|^{p-1} \\
\leq &(|x_i|+|y_i|)|x_i+y_i|^{p-1}\\
= &|x_i||x_i+y_i|^{p-1}+|y_i||x_i+y_i|^{p-1}
\end{align*}

この不等式の\(i\)を\(i=1 \cdots n\)とかえて辺々加えて\[\displaystyle \sum_{i=1}^{n}|x_i+y_i|^p \leq \sum_{i=1}^{n}|x_i||x_i+y_i|^{p-1}+\sum_{i=1}^{n}|y_i||x_i+y_i|^{p-1}\]を得る.

証明終

Minkowskiの不等式の証明で使うのでここにnoteしておきます。

高校数学の証明問題としても使えると思いますが三角不等式って高校数学ではそれほど使用頻度が高くないので意外と詰まっちゃう高校生も多い気がします。

絶対値

生徒に絶対値の定義は?と聞くと十中八九「距離です」と答えます。実際,教科書を見ると

数直線上で,実数\(a\)に対応する点と原点との距離を\(a\)の絶対値といい,記号\(|a|\)で表す

『高等学校 数学Ⅰ』数研出版

 
とあります。\(|3|\)とか\(|-5|\)などを考えるにはこの理解で問題ないでしょう。

しかし,この少し後で学ぶ\(|x|\)や\(|x-4|\)などを含む方程式・不等式が現れると途端に分からなくなる,という生徒がすごく多いのです。確かに「『絶対値は距離』だから\(x-4\)までのキョリ?どういうこと??」と大混乱してしまうのはまったく無理もないと思います。これは,その生徒ではなく教科書の定義の仕方自体に原因があると思う。「距離」なんてものを持ち出して中途半端に視覚化して理解させようとするから(応用問題において)逆に混乱させてしまう。

というわけで教科書はあまり当てにならないので,手元の微分積分学の本では絶対値をどう定義しているか見てみると,例えば

\(M=\{a,-a\}\)に対し\(\max M=|a|\)とかき,\(a\)の絶対値という.

笠原晧司『微分積分学』サイエンス社

 
とあります。これは換言すれば,次のようになります

絶対値の定義\[|a|:=\begin{cases}a\quad(a\geq 0) \\ -a \quad(a<0)\end{cases}\]

スローガン風に言えば,「‘中身’をムリヤリ正にする記号」,ということです。ここに「数直線」や「距離」などを持ち出す必要はありません。多くの数学書がそうしているように,これを明確に定義とすべきだと思います。このように理解しておけば,上記の\(|x-4|\)の例でいえば

\(|x-4|\)?中身\(x-4\)をムリヤリ正にしたいわけね
→そら中身の\(x-4\)が正か負かで扱い変わるでしょ
→でも\(x-4\)の正負って\(x\)に入る値によって変わるよね
→\(x\geq 4\)なら正なんだからはなから正だわこれ,そのまま外すわ
→\(x<4\)なら負ね,こいつをムリヤリ正にしたいってことは\(-1\)かければいいよね

と自然に頭が動くと思う。

「(困ったら)定義に戻って考える」というのは数学の重要な姿勢のひとつだと思うんですが,そのように定義に立ち戻って考えた人間が混乱するような記述はいかがなものか,と思います(が,教科書通りやらないと注意されたりするんだよなあ…)。

(おわり)

 

 

「すべての」と「ある(存在する)」

数Ⅰの問題です。

\(y=p(x-q)^2+q~(p \neq 0)\)上のすべての点が放物線\(y=x^2-1\)の下側にあるような実数\(q\)が存在するときの実数\(p\)の範囲を求めよ.

まず,「~するときの範囲を求めよ」(「~するための条件を求めよ」)というのは「~するための必要十分条件を求めよ」と問うていると思われます。したがって「\(y=p(x-q)^2+q\)上のすべての点が放物線\(y=x^2-1\)の下側にあるような実数\(q\)が存在する」を同値変形することを考えます。日本語のままでは考えづらいので,この主張を論理記号を用いて表わしてみます。すると\[\exists q \in \mathbb{R} \forall x \in \mathbb{R}[x^2-1>p(x-q)^2+q]\]となります。したがって,

解答

\begin{align*}
&\exists q \in \mathbb{R} \forall x \in \mathbb{R}[x^2-1>p(x-q)^2+q]\\
\Longleftrightarrow~&\exists q \in \mathbb{R} \forall x \in \mathbb{R}[(1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0]\\
\Longleftrightarrow~&\exists q \in \mathbb{R} \forall x \in \mathbb{R} \begin{cases}(1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0 \\ 1-p>0 \lor 1-p=0 \lor 1-p < 0 \end{cases}\\ \Longleftrightarrow~&\exists q \in \mathbb{R} \forall x \in \mathbb{R}[((1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0\land p<1)\\ &\lor ((1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0\land p=1) \\
&\lor ((1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0\land p>1) ]\tag{1}
\end{align*}
ここで,\[\forall x\in \mathbb{R}[(1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0\land p=1]\]と\[\forall x\in \mathbb{R}[(1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0\land p>1]\]は偽の命題であるから,\((1)\)は
\[(1)\Longleftrightarrow~\exists q \in \mathbb{R} \forall x \in \mathbb{R}[(1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0\land p<1]\]とできる().したがって,
\begin{align*}
(1)\Longleftrightarrow~&\exists q \in \mathbb{R} \forall x \in \mathbb{R}[(1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0\land p<1]\\ \Longleftrightarrow~&\exists q \in \mathbb{R} [\forall x \in \mathbb{R}[(1-p)x^2+2pqx-pq^2-q-1>0]\land p<1]\\ \Longleftrightarrow~&\exists q \in \mathbb{R} [p^2q^2-(1-p)(-pq^2-q-1)<0\land p<1]\\ \Longleftrightarrow~&\exists q \in \mathbb{R} [p^2q^2-(1-p)(-pq^2-q-1)<0]\land p<1\\ \Longleftrightarrow~&\begin{cases}\exists q \in \mathbb{R} [pq^2+(1-p)q+1-p<0\land (p >0 \lor p < 0)]\\ p<1 \end{cases}\\ \Longleftrightarrow~&\begin{cases}\exists q \in \mathbb{R} [(pq^2+(1-p)q+1-p<0\land p >0) \lor (pq^2+(1-p)q+1-p<0\land p < 0)]\\ p<1 \end{cases} \\ \Longleftrightarrow~&\begin{cases}\exists q \in \mathbb{R}[pq^2+(1-p)q+1-p<0\land p >0] \lor \exists q \in \mathbb{R}[pq^2+(1-p)q+1-p<0\land p < 0]\\ p<1 \end{cases}\\ \Longleftrightarrow~&\begin{cases}(\exists q \in \mathbb{R}[pq^2+(1-p)q+1-p<0]\land p >0) \lor (\exists q \in \mathbb{R}[pq^2+(1-p)q+1-p<0]\land p < 0)\\ p<1 \end{cases}\\ \Longleftrightarrow~&\begin{cases}((1-p)^2-4p(1-p)>0 \land p>0)\lor p < 0\\ p<1 \end{cases}\\ \Longleftrightarrow~&\begin{cases}((p-1)(5p-1)>0 \land p>0)\lor p < 0\\ p<1 \end{cases}\\ \Longleftrightarrow~&\begin{cases}0 < p < \frac{1}{5}\lor p < 0\\ p<1 \end{cases}\\ \Longleftrightarrow~&0 < p < \frac{1}{5}\lor p < 0 \end{align*} 解答終

一般的な解答においてやっている(であろう)ことの正当性が個人的にいまいち納得できないので,論理式で考えてみました。一般的な解答において感じるその不安感というか気持ち悪さは,上の解答で行っている恒真命題の追加,分配法則,\(\forall\)や\(\exists\)の支配域の変更などがぼかされているためではないかと思います。さらに,この解答においても一つ気になるのが()の部分です。一般に,\[\forall x[p(x)\lor q(x)] \Longleftarrow \forall x p(x)\lor \forall x q(x)\]すなわち全称記号は\(\lor\)に関して分配は出来ませんから,そこだけちょっと誤魔化しています。これについては別記事で詳しく考えてみようと思います。

◆無理不等式その2

次の式を\(\sqrt{\quad}\)のない形で表せ(同値変形せよ).
\[\sqrt{a} < b\]

恒真条件の追加と分配法則,矛盾命題の消去により,
\begin{align*}
&\sqrt{a} < b\\ \Longleftrightarrow~&\sqrt{a}< b \land (b \geq 0 \lor b < 0)\\ \Longleftrightarrow~&(\sqrt{a} < b \land b \geq 0)\lor (\sqrt{a} < b \land b < 0)\\ \Longleftrightarrow~&\sqrt{a} < b \land b \geq 0 \end{align*} ここからさらに変形を考えますが,前回同様,いきなり同値な変形は考えづらいので,必要性\((\Rightarrow)\)と十分性\((\Leftarrow)\)を別々に考えることにします. まず必要性\((\Rightarrow)\)から.\(\sqrt{a} \geq 0\)ですから,\(\sqrt{a} < b\)の両辺を2乗することができて,例えば次のように必要条件が得られます: \begin{align*} &\sqrt{a} < b \land b \geq 0 \Longrightarrow a < b^2 \land b \geq 0 \tag{1} \end{align*} 次にこの\((1)\)における十分性\((\Leftarrow)\)を考えてみます.当然,\(a < b^2\)の両辺に\(\sqrt{\quad}\)をとりたくなりますが,しかし\(a\)が正である保証は今手元の仮定にはありません.つまり\(\sqrt{\quad}\)をとることができず,戻れない.そこで,\((1)\)において必要条件をもう少し絞り出すことを考えます.欲しいのは\(a \geq 0\)ですが,\(\sqrt{a}\)の‘中身’は正ですから,必要条件は \[\sqrt{a} < b\land b \geq 0 \Longrightarrow a < b^2 \land b \geq 0 \land a \geq 0\] とできるはずです.そして改めて十分性を確認してみます. \begin{align*} a < b^2 \land b \geq 0 \land a \geq 0 \Longrightarrow &\sqrt{a} < \sqrt{b^2} \land b\geq 0 \land a \geq 0\\ \Longrightarrow &\sqrt{a} < |b| \land b \geq 0 \land a \geq 0\\ \Longrightarrow &\sqrt{a} < b \land b \geq 0 \land a \geq 0\\ \Longrightarrow &\sqrt{a} < b \land b \geq 0 \end{align*} となり戻れました.これで必要十分(同値)であることが分かりました.したがって\((1)\)の論理式は, \[\sqrt{a} < b \land b \geq 0 \Longleftrightarrow a < b^2 \land b \geq 0 \land a \geq 0 \Longleftrightarrow 0\leq a < b^2 \land b \geq 0 \] と書きかえれば同値になることが分かりました. 以上により,

\[\sqrt{a} < b \Longleftrightarrow 0\leq a < b^2 \land b \geq 0 \]

と同値変形できることが分かりました.

◆無理不等式その1

次の式を\(\sqrt{\quad}\)のない形で表せ(同値変形せよ).
\[\sqrt{a}>b\]

恒真条件の追加と分配法則により,
\begin{align*}
&\sqrt{a}>b\\
\Longleftrightarrow~&\sqrt{a}>b \land (b \geq 0 \lor b < 0)\\
\Longleftrightarrow~& (\sqrt{a}>b \land b \geq 0)\text{(ア)} \lor (\sqrt{a}>b \land b < 0) \text{(イ)}
\end{align*}

(ア)と(イ)を分けて考えます.

(まず(ア)について)
いきなり同値な変形は考えづらいので,必要性\((\Rightarrow)\)と十分性\((\Leftarrow)\)を別々に考えることにします. まず必要性\((\Rightarrow)\)から.今,\(b \geq 0\)ですから,\(\sqrt{a}>b\)の両辺を2乗することができて,例えば
\begin{align*}
&\sqrt{a}>b \land b \geq 0 \text{(ア)}\Longrightarrow a > b^2\tag{1}
\end{align*}
のように必要条件が得られます.次にこの\((1)\)における十分性\((\Leftarrow)\)を考えてみましょう.両辺が正ですから,\(\sqrt{\quad}\)をとることができますが,
\[a > b^2 \Longrightarrow \sqrt{a} > \sqrt{b^2} \Longrightarrow \sqrt{a} > |b|\]
となり(ア)に戻れません(\(b\)の正負がわからない).そこで,\((1)\)において(ア)の必要条件をもう少し絞り出しておきましょう.
\[\sqrt{a} > b\land b \geq 0 \text{(ア)}\Longrightarrow a > b^2 \land b \geq 0\]
そして十分性を確認してみます.
\begin{align*}
a > b^2 \land b \geq 0\Longrightarrow &\sqrt{a} > \sqrt{b^2} \land b\geq 0 \\
\Longrightarrow &\sqrt{a} > |b| \land b \geq 0 \\
\Longrightarrow &\sqrt{a} > b \land b \geq 0
\end{align*}
となりこれなら(ア)に戻れます.これで必要十分(同値)であることが分かりました.したがって\((1)\)の論理式は,
\[\sqrt{a} > b \land b \geq 0 \text{(ア)}\Longleftrightarrow a > b^2 \land b \geq 0 \tag{1′}\]
と書きかえれば同値になることが分かりました.

(次に(イ)について)
必要性\(\Rightarrow\)から見てみます.ここでは例えば明らかな必要性
\[(\sqrt{a} > b \land b < 0) \text{(イ)} \Longrightarrow b < 0 \tag{2}\] を考えてみます.逆(十分性)はどうか? \[b < 0 \Longrightarrow (\sqrt{a} > b \land b < 0) \text{(イ)}\]が言えるか?…残念ながら言えません.なぜなら\(a\)は\(\sqrt{\quad}\)の中にあるのだから正でなくてはなりませんが,しかし仮定には\(a\)の正負についての言及がないからです.このことを踏まえて\((2)\)で(イ)の必要条件を適切に絞り出しておきます.\(\sqrt{\quad}\)の‘中身’は正であることに着目して, \[(\sqrt{a} > b \land b < 0) \text{(イ)} \Longrightarrow a \geq 0 \land b < 0\] さてこれならどうでしょうか?逆(十分性)を見てみると \[a \geq 0 \land b < 0 \Longrightarrow (\sqrt{a} > b \land b < 0) \text{(イ)}\] は確かに言えます.したがって,\((2)\)の論理式は \[(\sqrt{a} > b \land b < 0) \text{(イ)} \Longleftrightarrow a \geq 0 \land b < 0\tag{2'}\] と書けば同値であることがわかりました. \((1'),(2')\)により,

\[\sqrt{a}>b \Longleftrightarrow (a > b^2 \land b \geq 0) \lor (a \geq 0 \land b < 0)\]

と同値変形できることが分かりました.

ちなみにもし,\(b \geq 0\)という条件を‘大前提’として奉れば,当然
\[\sqrt{a}>b \Longleftrightarrow a > b^2 \land b \geq 0\]
と書けます.

連立方程式の解法は…「文字を減らす」方針?その2

下の記事を見直してたらちょっと気になったので一言.「文字を減らす」という方針について以前の記事に追加です.

\[\begin{align*}
&\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longleftrightarrow
\begin{cases}
f(g(x,y),~h(x,y))=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\end{align*}
\]

です.

(理由)
\(\Rightarrow\)は第1式の\(s\)と\(t\)に第2,3式により\(s=g(x,y),~t=h(x,y)\)をそれぞれ代入すれば得られます.
\(\Leftarrow\)はは第1式の\(g(x,y)\)と\(h(x,y)\)を第2,3式により\(g(x,y)=s,~h(x,y)=t\)とおき直せば得られます.(ちなみにこれは,もし第2,3式\(g(x,y)=s,~h(x,y)=t\)がなければ逆が成り立たない,すなわち
\[
\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longrightarrow
f(g(x,y),~h(x,y))=0\\
\]
であることを意味します.)

…(同値性という観点から言えば)文字は別に減らしてなんかいないことに注意.

しかしもし,
\[
\exists s \exists t\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\]
なら,存在記号を処理することで,

\[\exists s \exists t\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longleftrightarrow
f(g(x,y),~h(x,y))=0
\]

となります.見た目通り,文字\(s,t\)は消えます

同値変形,途中のアプローチの違い

\[\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]\]という主張の同値変形について見てみます.

【変形1】
\begin{align*}
&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]&(0)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land \frac{4Y^2}{(2-X)^2}=\frac{4X}{2-X}\right]&(1)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2 \right]&(2)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \right] \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(3)\\
\Longleftrightarrow~&X \neq 2 \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(4)\\
\Longleftrightarrow~&Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(5)\\
\Longleftrightarrow~&(X-1)^2+Y^2=1 \land X \neq 2
\end{align*}

\((2)\)は\(\frac{4Y^2}{(2-X)^2}=\frac{4X}{2-X} \Longleftrightarrow Y^2=X(2-X) \land X \neq 2\)
\((3)\)は\(Y^2=X(2-X) \land X \neq 2\)が変数\(s,t\)を含まないので,\(\exists s\exists t\)の支配域を変更することができるから
\((4)\)は\(\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \right] \Longleftrightarrow X \neq 2\)より
\((5)\)は
\[p \land q \Leftrightarrow q \land p,\quad p \land p \Leftrightarrow p\]
によります(いずれも真理値表から明らか)

【変形2】
\begin{align*}
&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]&(0)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[ \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t\right]\right] &(1)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land \exists t\left[ t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t\right]\right] &(2)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land s^2=\frac{4X}{2-X}\right] &(3)’\\
\Longleftrightarrow~&\left(\frac{2Y}{2-X}\right)^2=\frac{4X}{2-X} &(4)’\\
\Longleftrightarrow~&Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(5)’\\
\Longleftrightarrow~&(X-1)^2+Y^2=1 \land X \neq 2
\end{align*}

\((1)’\)はそもそも\(\exists s\left[ \exists t[p(s,t)]\right]\)の略記が\(\exists s \exists t[p(s,t)]\)だから
\((2)’\)は支配域の変更.\((2)\)と同じ
\((3)’\)は\(\exists t\)の処理
\((4)’\)は\(\exists s\)の処理
\((5)’\)は\((1)\)と同様の同値変形によります

\((0)’\)から\(~(4)’\)までの同値変形はこのように書くと厳ついですがやってることは結局\(s,t\)の消去です.通常は\((0)’\)から\((4)’\)まで一気に一行で処理してしまうところだと思います.

\((0)\)から\((1)\)への変形と\((0)’\)から\((4)’\)への変形に違いに注意しましょう(詳しくはこの記事にて.関連:「『存在する』の扱い」「連立方程式の解法は…『文字を減らす』方針?」).文字を「消去する」ことを正しく認識していないとこういう箇所で間違えてしまうので注意.

【変形1】【変形2】いずれにしても同じ結論です.途中のアプローチが違えど,論理式を正しく扱いすれば必然的に同じ結論が得られる,ということでした.

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