連立方程式の解法は…「文字を減らす」方針?その2

下の記事を見直してたらちょっと気になったので一言.「文字を減らす」という方針について以前の記事に追加です.

\[\begin{align*}
&\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longleftrightarrow
\begin{cases}
f(g(x,y),~h(x,y))=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\end{align*}
\]

です.

(理由)
\(\Rightarrow\)は第1式の\(s\)と\(t\)に第2,3式により\(s=g(x,y),~t=h(x,y)\)をそれぞれ代入すれば得られます.
\(\Leftarrow\)はは第1式の\(g(x,y)\)と\(h(x,y)\)を第2,3式により\(g(x,y)=s,~h(x,y)=t\)とおき直せば得られます.(ちなみにこれは,もし第2,3式\(g(x,y)=s,~h(x,y)=t\)がなければ逆が成り立たない,すなわち
\[
\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longrightarrow
f(g(x,y),~h(x,y))=0\\
\]
であることを意味します.)

…(同値性という観点から言えば)文字は別に減らしてなんかいないことに注意.

しかしもし,
\[
\exists s \exists t\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\]
なら,存在記号を処理することで,

\[\exists s \exists t\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longleftrightarrow
f(g(x,y),~h(x,y))=0
\]

となります.見た目通り,文字\(s,t\)は消えます

同値変形,途中のアプローチの違い

\[\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]\]という主張の同値変形について見てみます.

【変形1】
\begin{align*}
&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]&(0)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land \frac{4Y^2}{(2-X)^2}=\frac{4X}{2-X}\right]&(1)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2 \right]&(2)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \right] \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(3)\\
\Longleftrightarrow~&X \neq 2 \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(4)\\
\Longleftrightarrow~&Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(5)\\
\Longleftrightarrow~&(X-1)^2+Y^2=1 \land X \neq 2
\end{align*}

\((2)\)は\(\frac{4Y^2}{(2-X)^2}=\frac{4X}{2-X} \Longleftrightarrow Y^2=X(2-X) \land X \neq 2\)
\((3)\)は\(Y^2=X(2-X) \land X \neq 2\)が変数\(s,t\)を含まないので,\(\exists s\exists t\)の支配域を変更することができるから
\((4)\)は\(\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \right] \Longleftrightarrow X \neq 2\)より
\((5)\)は
\[p \land q \Leftrightarrow q \land p,\quad p \land p \Leftrightarrow p\]
によります(いずれも真理値表から明らか)

【変形2】
\begin{align*}
&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]&(0)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[ \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t\right]\right] &(1)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land \exists t\left[ t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t\right]\right] &(2)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land s^2=\frac{4X}{2-X}\right] &(3)’\\
\Longleftrightarrow~&\left(\frac{2Y}{2-X}\right)^2=\frac{4X}{2-X} &(4)’\\
\Longleftrightarrow~&Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(5)’\\
\Longleftrightarrow~&(X-1)^2+Y^2=1 \land X \neq 2
\end{align*}

\((1)’\)はそもそも\(\exists s\left[ \exists t[p(s,t)]\right]\)の略記が\(\exists s \exists t[p(s,t)]\)だから
\((2)’\)は支配域の変更.\((2)\)と同じ
\((3)’\)は\(\exists t\)の処理
\((4)’\)は\(\exists s\)の処理
\((5)’\)は\((1)\)と同様の同値変形によります

\((0)’\)から\(~(4)’\)までの同値変形はこのように書くと厳ついですがやってることは結局\(s,t\)の消去です.通常は\((0)’\)から\((4)’\)まで一気に一行で処理してしまうところだと思います.

\((0)\)から\((1)\)への変形と\((0)’\)から\((4)’\)への変形に違いに注意しましょう(詳しくはこの記事にて.関連:「『存在する』の扱い」「連立方程式の解法は…『文字を減らす』方針?」).文字を「消去する」ことを正しく認識していないとこういう箇所で間違えてしまうので注意.

【変形1】【変形2】いずれにしても同じ結論です.途中のアプローチが違えど,論理式を正しく扱いすれば必然的に同じ結論が得られる,ということでした.

\(\exists x[a \leq x \leq b] \Longleftrightarrow a\leq b\)

\(\exists x[a \leq x \leq b] \Longleftrightarrow a\leq b\)

証明

(\(\Rightarrow\))
存在する\(x\)を\(c\)とおくと,\(a \leq c \leq b\)が成り立つ.ゆえに\(a \leq b\)がいえる.

(\(\Leftarrow\))
\(a \leq b\)とする.このとき,\(\frac{a+b}{2}\)をとれば,\(a \leq \frac{a+b}{2} \leq b\)とかける.すなわち\(a \leq x \leq b\)をみたす\(x\)が(\(\frac{a+b}{2}\)として)存在する.

(証明終)

この問題で使いました.

\(p \rightarrow q \Longleftrightarrow \overline{p}\lor q\)

極めてよく使う同値変形\[p \rightarrow q \Longleftrightarrow \overline{p}\lor q\]を確認してみましょう.真理値表を書いて調べてみます.実際に紙の上で調べる際の手順を再現してみます(一緒に書いてみてくださいね).

まず,命題\(p\)と命題\(q\)の真偽の組合せは以下のように\(2\times 2\)通りあります.


次に,\(p \rightarrow q\)について調べたいので,最上行にそれを書きこみましょう.\(\rightarrow\)の定義から,その真理値は以下のように書けます(\(p\)が真で\(q\)が偽であるときのみ,\(p \rightarrow q\)は偽であるのでした).


次に,調べたい\(\overline{p}\lor q\)を同じく最上行に書き込みます.


いきなり\(\overline{p}\lor q\)の真理値を書き込むのは難しいので,順を追って書き込むことにします.まずは\(\overline{p}\)から.これは簡単ですね.定義により,次のように書き込めます.


次に\(q\).これはそのまま.


いよいよ\(\overline{p}\lor q\)の真理値.\(\lor\)の定義により,


さて,\(p \rightarrow q\)と\(\overline{p}\lor q\)の真理値をながめてみましょう.真理値が一致しています.すなわちこの二つの命題は同値であることが確認できます.

※ 本来ならば,\(p,~\overline{p},~\overline{p}\lor q\)の真理値はそれぞれ別々の列に書くのが正しい(と思う)のですが,面倒なので上のように略記しています.

平行移動の公式

平行移動の公式
\(y=ax^2\)のグラフを,\(x\)軸方向に\(p\),\(y\)軸方向に\(q\)だけ平行移動した放物線は\[y=a(x-p)^2+q\]である.

この公式を教科書ではどのように説明しているかというと…

\(y=2x^2,~y=2x^2+3\)という具体例を持ち出してこの二者の関係を調べて(表または実際にグラフを描き),そこから\(y=2x^3+3\)のグラフは,\(y=2x^2\)のグラフを\(y\)軸方向に\(3\)だけ平行移動したものである,と結論し,
\[\downarrow\]
\(y=2x^2,~y=2(x-3)^2\)という具体例を持ち出し,表からこの二者の関係を調べて\(y=2(x-3)^3\)のグラフは,\(y=2x^2\)のグラフを\(x\)軸方向に\(3\)だけ平行移動したものである,と結論し,
\[\downarrow\]
そしてこの二つから上の公式を結論しています(詳しくはお手持ちの教科書参照).

この公式に限らず,高校の教科書は\[\textbf{具体例}\rightarrow\textbf{一般論}\]という書き方をしています.「この場合はこうだよね~,あの場合もこうだよね~,ということは一般にこう言えるよね~」という論法ですね.これで「ああなるほど!」と思えればいいんでしょうけど,なんか騙された気がするひとも少なくないはず.実際,数学を学ぶ姿勢としてはこれだけでは納得できない(しない)方がむしろよいと思います.二,三の例が正しいからとしって他の例も正しいとは限りませんからね.

というわけで証明(※注意 pdfファイルです)

いわゆる「教科書通り」にやるとこういったことを飛ばすことになるんですが,それが「数学を勉強している」ことになるんでしょうか…?もっとも,こういった話はテストに出ない(出せない)わけですからやったところでスコアにはならない.その意味においてはやる意味がない,のかもしれませんが….でも,天下り的に与えられた解決策をただ覚えるだけではないある意味メタ的な能力を培うことも数学を学ぶ重要な意義のひとつだと思うんですが.まあ,教える側,教わる側共々様々な事情・制約がありますから,難しい問題です.

 

軌跡と同値関係

原点\(O\)からの距離と点\(A(3,0)\)からの距離の比が\(2:1\)である点\(P\)の軌跡を求めよ.

教科書では「点\(P\)の軌跡を求める手順」を次のように言っています

    1. 条件を満たす点\(P\)の座標を\((x,~y)\)として,点\(P\)に関する条件を\(x,~y\)の式で表し,この方程式が表す図形が何かを調べる.
    2. 逆に,で求めた図形上のすべての点\(P\)が,与えられた条件を満たすことを確かめる.

引用元:『高等学校 数学Ⅱ』数研出版

 

で,その解法に従った解答が,

点\(P\)に関する条件は\[OP:AP=2:1\]
これより\[2AP=OP\]
すなわち\[4AP^2=OP^2\]
\(AP^2=(x-3)^2+y^2,~OP^2=x^2+y^2\)を代入すると\(4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\)
整理すると\(x^2-8x+y^2+12=0\)すなわち\((x-4)^2+y^2=2^2\).
よって点\(P\)は円\((x-4)^2+y^2=2^2\)上にある.
逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす.
したがって,求める軌跡は,点\((4,~0)\)を中心とする半径\(2\)の円である.

引用元:『高等学校 数学Ⅱ』数研出版

 

とあります.ここで疑問.

逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす」これは何?っていうか,なぜこんなことが言えるの?実際にその「すべての点」について「距離の比が\(2:1\)である」と調べたってこと?でも「すべての点」って,得られた図形は円だから円上の点,すなわち「無限個の点」ということでしょ?無限回計算して調べるわけ…??

…と思った人も少なくないはず.これ,疑問を持つほうが自然で,その人の理解力が無いんじゃなく,はっきり言って教科書のほうが悪い.まさに教科書特有のダメダメ記述の代表格.にもかかわらず何のフォローもないという.結果どうするか?「良く分からないから覚えよう」になる.だからあまり深く考えない人ほどテキトーにスルーして得点できる.こんな勉強を強いられる(真面目な)高校生が本当かわいそう.

別解を示します.

解答
\[
\begin{align}
&OP:AP=2:1\\
\Longleftrightarrow &~2AP=OP\\
\Longleftrightarrow &~4AP^2=OP^2\\
\Longleftrightarrow &~4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\\
\Longleftrightarrow &~x^2-8x+y^2+12=0\\
\Longleftrightarrow &~(x-4)^2+y^2=2^2\\
\end{align}
\]
したがって,求める軌跡は,点\((4,~0)\)を中心とする半径\(2\)の円.

このようにかけば逆の考察など必要ありません.その理由は,上のように一連の式の間の論理関係を見てらえればわかりますが,どれも同値変形だからです.このような同値記号を用いた記述であれば,このこと,すなわち「各式は明らかに同値だから,逆の考察はしないよ」という意思表示になっています.だから逆の考察は必要ない,というわけです.

対して,教科書の解答はどういう意図のもとに「逆に~」を書いているのでしょうか.解答では「これより」「すなわち」「整理すると」「よって」…という(数学的定義のない)日本語を多用しているところを見るに,各段階において十分性を意識せずに変形している,と考えられます(「最初に十分性を追わずに必要性だけ追っていき,あとで別枠で十分性を調べる」という論法自体は数学ではよく見られる方法で,それ自体は問題はありません).論理式で書けば

\[
\begin{align}
&OP:AP=2:1\\
\Longrightarrow &~2AP=OP\\
\Longrightarrow &~4AP^2=OP^2\\
\Longrightarrow &~4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\\
\Longrightarrow &~x^2-8x+y^2+12=0\\
\Longrightarrow &~(x-4)^2+y^2=2^2\\
\end{align}
\]

という構造になっているので,最後に元の条件と同値であるかどうか確認が求められる,だから上の論理式において「\(\Leftarrow\)も言えるよ」という意味で「逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす.」と書いたのでしょう.しかしこれもかなり譲歩して読み取ればの話で,解答の書き方では冒頭に記したように「\((x-4)^2+y^2=2^2\)をみたすすべての点,つまり無限個の点について距離の比が\(2:1\)であると無限回調べた」としか読み取れないと思うんですがね.

もちろん教科書特有の色々な制約の下でのやむを得ない記述なんでしょうけど,正直者が馬鹿を見る(真面目な;思慮深い生徒が躓く)的な記述はいかがなものか,と思う.せめて解答欄外でフォローしようよ,と思いますね.これだから教科書至上主義は危険です.

「いやそんなややこしいこと考えずともに最後に『逆に~』の一言を書いときゃそれでOKでしょ点数は貰えるし」と思う人.それは教科書レベルでの話.少し発展的な問題になると痛い目にあいますよ.

「ならば」の否定

問題
\(a,~b\)を有理数とするとき,\(\sqrt{3}\)が無理数であることを用いて,「\(a+b\sqrt{3}=0\)ならば\(a=0\)かつ\(b=0\)」であることを証明せよ.

定番問題です。解答を見ると,次のように始まります。

\(b\neq 0\)とすると…

 

賢明な生徒であればここで「背理法かな?」気付くはず。それは正しいです。では,与えられた命題「\(a+b\sqrt{3}=0\)ならば\(a=0\)かつ\(b=0\)」の否定が「\(b\neq 0\)」ということでしょうか?…うーん明らかに違う気が。。

「\(a+b\sqrt{3}=0\)ならば\(a=0\)かつ\(b=0\)」の否定がどうなるかに注意しつつ,証明を作ってみます。与えられた命題は論理記号を用いて「\(a+b\sqrt{3}=0\Longrightarrow a=0\land b=0\)」と書けることに注意して,

証明(その1)

\[\overline{ a+b\sqrt{3}=0 \Longrightarrow a=0 \land b=0}\]と仮定する.
\begin{align}
&\overline{ a+b\sqrt{3}=0 \Longrightarrow a=0 \land b=0}\\
\Longleftrightarrow~ &\overline{\overline{a+b\sqrt{3}=0} \lor (a=0 \land b=0)}&(\Rightarrow \text{の定義})\\
\Longleftrightarrow~ &a+b\sqrt{3}=0 \land \overline{a=0 \land b=0}&(\text{ドモルガンの法則})\\
\Longleftrightarrow~ &a+b\sqrt{3}=0 \land (a \neq 0 \lor b \neq 0)&(\text{ドモルガンの法則})\\
\Longleftrightarrow~ &(a+b\sqrt{3}=0 \land a \neq 0 ) \lor (a+b\sqrt{3}=0 \land b \neq 0)&(\text{分配法則})\\
\Longleftrightarrow~ &\left(1+\frac{b}{a}\sqrt{3}=0 \land a \neq 0 \right) \lor \left(\frac{a}{b}+1\sqrt{3}=0 \land b \neq 0\right)\\
\Longleftrightarrow~ &\left(\frac{-3b}{a}=\sqrt{3} \land a \neq 0 \right) \lor \left(-\frac{a}{b}=\sqrt{3} \land b \neq 0\right)\\
\Longleftrightarrow~ &\bot \lor \bot\\
\Longleftrightarrow~ &\bot
\end{align}

したがってもとの命題は正しい.

証明終

\(\bot\)は矛盾命題を表します。

…では,模範解答の「\(b\neq 0\)とすると~」は一体何をしているのでしょうか?これはおそらく以下のようだと思われます:

証明(その2)

\[
\begin{align}
&a+b\sqrt{3}=0 \Rightarrow b=0 \\
\overset{(\ast)}\Longleftrightarrow~&a+b\sqrt{3}=0 \Rightarrow a+b\sqrt{3}=0 \land b=0 \\
\Longleftrightarrow~ &a+b\sqrt{3}=0 \Rightarrow a=0 \land b=0
\end{align}
\]
であるから,\[a+b\sqrt{3}=0 \Rightarrow b=0\]を示せばよい.この命題を否定すると\[a+b\sqrt{3}=0 \land b\neq 0\]であるが,
\[a+b\sqrt{3}=0 \land b\neq 0\Longleftrightarrow\sqrt{3}=-\frac{a}{b} \land b\neq 0\]これは矛盾である.

証明終

上の証明における\((\ast)\)は,(直観的にはまあ明らか,ではありますが)\[(P\Rightarrow Q) \Longleftrightarrow (P\Rightarrow P \land Q)\]という論理式によります。いずれにしても,ならば(含意)の否定というものを学んでいない以上,上のような証明は作りようがない。いきなり「\(b \neq 0\)とする」なんて言われても納得しようがないし,安易に納得してはいけない。ちなみにこの解答の脚注にはこんな一言が載っています。「結論が\(p\)かつ\(q\)という命題を背理法を用いて証明するときは\(\overline{p}\)または\(\overline{q}\)のみを仮定して矛盾を導けばよい」…でもそうすべき理由とその方針が正しい理由は?

まあ,ある程度はブラックボックス化するのはやむを得ないとはいえ,ここは端折るところではないのでは…と思います。さもなければそもそも\(P\Rightarrow Q \land R\)なんて命題の証明なんて取り扱わないで欲しい。生徒に説明するとき誤魔化すハメになりほんと迷惑極まりない。

 

「でない」「かつ」「または」「ならば」の定義

最初に「命題」「条件」という言葉の確認から.

命題:正しいか正しくないかを一意的に判定できる主張
条件:変数(変項ともいいます)を含む命題

これらは高校生は数学Ⅰで既習だと思います.

以下,\(p,~q\)を命題とします.\(\overline{p},~p\land q,~p \lor q,~p\rightarrow q\)を改めて定義します.

定義

\(p\land q\)
\(p\)と\(q\)が両方真のときのみ真で,その他の場合はすべて偽となるような命題.この命題を「\(p\)かつ\(q\)」と呼び,\(p \land q\)と表す.

\(p \lor q\)
\(p\)と\(q\)が両方偽ときのみ偽で,その他の場合はすべて真となるような命題.この命題を「\(p\)または\(q\)」と呼び,\(p \land q\)と表す.

\(\overline{p}\)
\(p\)が真のときに偽で\(p\)が偽のときに真となるような命題.この命題を「\(p\)でない」あるいは「\(p\)の否定」と呼び,\(\overline{p}\)あるいは\(\lnot{p}\)と表す.

\(p\rightarrow q\)
\(p\)が真で\(q\)が偽のときのみ偽で,その他の場合はすべて真となるような命題.この命題を「\(p\)ならば\(q\)」と呼び,\(p\rightarrow q\)と表す.

上が\(p\land q,~p \lor q,~\lnot p,~p\rightarrow q\)の定義です.…が,とても見にくいですね.そこで以下のような表でまとめてみます.Tは真(True)を,Fは偽(False)を表すとします.


大分見やすくなりました.これを,「真理表(または真理値表)」と呼びます.以後,\(p\land q,~p \lor q,~\lnot p,~p\rightarrow q\)を上の表に従う命題とし,これらの表に基づき各種命題の真偽判定していくことになります.

(補足1)
ところで,この定義の中で唯一違和感があるとしたら,「『\(p\)ならば\(q\)』は,\(p\)が偽のとき\(q\)の真偽に関わらず真とする」という点かと思います.定義なんだからつべこべ言わず受け入れましょう,と言いたいところですが(「定義する」と言われたら受け入れるしかない?),あえて感覚的な説明をするとしたら,次のように考えると受け入れやすいかもしれません:

とある家庭で父親が息子に言いました「テストで満点をとったら,スマホを買ってあげるよ」と.

このとき,次の4つのケースが考えられます.

    1. 息子が満点をとり,父親がスマホを買ってあげる
    2. 息子が満点をとり,父親がスマホを買ってあげない
    3. 息子は満点をとれず,父親がスマホを買ってあげる
    4. 息子は満点をとれず,父親がスマホを買ってあげない

このうち,父親が「約束を守った・破った」ことになるのはどれかを考えてみます.1.これは父親はきちんと約束を守っています.2.これは父親は明らかに約束を破っていますね.さて,3と4についてはこのように考えられないでしょうか:

そもそも息子が満点を取ってない以上,父親が買ってあげようとも(満点とれなかったのにラッキーですね)買ってあげずとも,約束を破ったことにはならない,すなわち約束を守ったことになる.

このように考えると「ならば」を上のように定義することが感覚的に受け入れられるのではないでしょうか.

(補足2)
命題\[p \longrightarrow q\]
が真であることを,
\[p \Longrightarrow q\]
と表します.ですから,「\(p \Rightarrow q\)」は「\(p \rightarrow q\)が真である(成り立つ)」と読み替えられます.

軌跡の問題を論理式で記述する

2直線\(kx+2y-k+4=0\)と\(2x-ky+6-2k=0\)がある.\(k\)の値が変化するとき,この2直線の交点の軌跡の方程式を求めよ.

網羅系問題集には必ず載ってる軌跡の有名問題です.この手の問題に難儀した人は少なくないと思います.初めて見る人はこれを教科書で学んだ方法で解答を作成してみましょう.正解ならOK(軌跡に「漏れ」や「余計なもの」が入っていたらそれは正解とはいいませんよ).不正解なら以下を読んでみてください.

論理式で記述してみます.

求める軌跡上の点を\((X,~Y)\)とします.「\((X,~Y)\)が軌跡上の点である」ということを「\((X,~Y)\in\text{軌跡}\)」と表すことにします.この「\((X,~Y)\in\text{軌跡}\)」を同値変形することを考えます.

\[
\begin{align*}
&(X,~Y)\in\text{軌跡}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
kX+2Y-k+4=0\\
2X-kY+6-2k=0
\end{cases}\tag{1}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
(X-1)k=-2Y-4\\
2X-kY+6-2k=0
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
(X-1)k=-2Y-4\land(X-1=0 \lor X-1\neq 0)\\
2X-kY+6-2k=0\tag{2}
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
((X-1)k=-2Y-4\land X-1=0) \lor ((X-1)k=-2Y-4\land X-1\neq 0)\\
2X-kY+6-2k=0\tag{3}
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
(0\cdot k=-2Y-4\land X=1) \lor (k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1)\\
2X-kY+6-2k=0
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\begin{cases}
(X=1\land Y=-2) \lor (k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1)\\
2X-kY+6-2k=0
\end{cases}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\left(((X=1\land Y=-2) \lor (k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1))\land 2X-kY+6-2k=0\right)\\
\Longleftrightarrow~&\exists k\left((X=1\land Y=-2\land 2X-kY+6-2k=0) \lor (k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1\land 2X-kY+6-2k=0)\right)\tag{4}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k(X=1\land Y=-2\land 2X-kY+6-2k=0) \lor \exists k(k=\frac{-2Y-4}{X-1}\land X\neq 1\land 2X-kY+6-2k=0)\tag{5}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k(X=1\land Y=-2\land 2\cdot 1-k\cdot (-2)+6-2k=0) \lor (X\neq 1\land 2X-\frac{-2Y-4}{X-1}Y+6-2\frac{-2Y-4}{X-1}=0)\tag{6}\\
\Longleftrightarrow~&\exists k(X=1\land Y=-2\land 0\cdot k+8=0) \lor (X\neq 1\land X^2+2X+Y^2+4Y+1=0)\tag{7}\\
\Longleftrightarrow~&X\neq 1\land (X+1)^2+(Y+2)^2=4\tag{8}\\
\end{align*}
\]

となって求める軌跡の方程式を得ます.通常の解答を見るとわかりますが,読めばとりあえず理解はできるものの,いざ自分で解答をつくれと言われると次に何をやればよいのか見えずらく(必然性が感じられず)不安に感じるタイプの問題ではないでしょうか.で,結局半ば流れを「覚えよう」となるっていう.しかし,上で見るように論理式で記述すると機械的な変形(次にすべきことが明解で迷いがない,もはや「計算」するような感覚)により答えを得ることがきます.これが論理式の強力な点だと思います.

ただし上の変形は論理に関する様々な知識を使っています.

\((1)\)は存在条件への言い換えです.
\((2)\)は恒真条件\(X-1=0\lor X-1\neq 0\)の追加
\((3)\)は分配法則
\((4)\)は分配法則
\((5)\)は存在記号の分配法則
\((6)\)後半は存在記号があるので\(k\)を消去できて
\((7)\)の前半は矛盾命題なので\((8)\)と同値になります.

(というか数式がはみ出て見づらくてすみません…)

存在記号は分配できるか?

できます(かつ(\(\land\))に関して).なぜなら,

\[\forall x[p(x)\land q(x)]~\Longleftrightarrow \forall x p(x)\land \forall x q(x)\]であるから,この命題の待遇を考えると,

\[\lnot(\forall x[p(x)\land q(x)])~\Longleftrightarrow \lnot(\forall x p(x)\land \forall x q(x))\]

すなわち

\[\exists x[\lnot p(x)\lor \lnot q(x)]~\Longleftrightarrow \exists x \lnot p(x)\lor \exists x \lnot q(x)\]

となります.\(\lnot\)は否定を表す記号です.ですから,

\[\exists x[\overline{p(x)}\lor \overline{q(x)}]~\Longleftrightarrow \exists x \overline{ p(x)}\lor \exists x \overline{q(x)}\]

とも書けますね.見やすさのために\(\overline{p(x)}\)を\(p(x)\)に,\(\overline{q(x)}\)を\(q(x)\)に改めて書き換えれば,
\[\exists x[p(x) \lor q(x)]~\Longleftrightarrow \exists x p(x)\lor \exists x q(x)\]
となります.

注意:ただし,存在記号はかつ(\(\land\))に関しては分配できません!すなわち,\[\exists x[p(x) \land q(x)] \Longrightarrow \exists x p(x) \land \exists xq(x)\]であって,この逆は成り立ちません.これは具体例を考えれば分かりやすい.仮に全体集合をあるクラスだとして,\(p(x)\)を「\(x\)は勉強が得意」\(q(x)\)を「\(x\)はスポーツが得意」だとします.すると,\(\exists x[p(x) \land q(x)]\)は「勉強もスポーツも両方得意な生徒がいる」となり,\(\exists x p(x) \land \exists xq(x)\)は「勉強が得意な生徒がいて,かつ,スポーツが得意な生徒もいる」となります.\(\Longrightarrow\)が成り立つのは当たり前でしょう.\(\Longleftarrow\)について考えます.「(そのクラスに)勉強が得意な生徒がいて,スポーツが得意な生徒もいるのなら,勉強もスポーツも両方得意な生徒がいる」となりますが,これは正しいでしょうか.少し考えればわかるように明らかに正しくないですね.反例.仮定を満たすクラスとして,「勉強は超得意だけどスポーツはダメダメな秀才君がいて,スポーツは超得意だけど勉強はからっきしの脳筋君がいる.そしてクラスの他の生徒たちは勉強もスポーツもとくに得意とは言えない,いたってフツーの生徒,そんなクラスが例えば考えられます.このクラスには明らかに「勉強もスポーツも両方得意な生徒」はいることにはなりませんね.

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