連立方程式の解法は…「文字を減らす」方針?その2

下の記事を見直してたらちょっと気になったので一言.「文字を減らす」という方針について以前の記事に追加です.

\[\begin{align*}
&\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longleftrightarrow
\begin{cases}
f(g(x,y),~h(x,y))=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\end{align*}
\]

です.

(理由)
\(\Rightarrow\)は第1式の\(s\)と\(t\)に第2,3式により\(s=g(x,y),~t=h(x,y)\)をそれぞれ代入すれば得られます.
\(\Leftarrow\)はは第1式の\(g(x,y)\)と\(h(x,y)\)を第2,3式により\(g(x,y)=s,~h(x,y)=t\)とおき直せば得られます.(ちなみにこれは,もし第2,3式\(g(x,y)=s,~h(x,y)=t\)がなければ逆が成り立たない,すなわち
\[
\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longrightarrow
f(g(x,y),~h(x,y))=0\\
\]
であることを意味します.)

…(同値性という観点から言えば)文字は別に減らしてなんかいないことに注意.

しかしもし,
\[
\exists s \exists t\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\]
なら,存在記号を処理することで,

\[\exists s \exists t\begin{cases}
f(s,~t)=0\\
s=g(x,y)\\
t=h(x,y)
\end{cases}
\Longleftrightarrow
f(g(x,y),~h(x,y))=0
\]

となります.見た目通り,文字\(s,t\)は消えます

同値変形,途中のアプローチの違い

\[\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]\]という主張の同値変形について見てみます.

【変形1】
\begin{align*}
&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]&(0)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land \frac{4Y^2}{(2-X)^2}=\frac{4X}{2-X}\right]&(1)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2 \right]&(2)\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \right] \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(3)\\
\Longleftrightarrow~&X \neq 2 \land Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(4)\\
\Longleftrightarrow~&Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(5)\\
\Longleftrightarrow~&(X-1)^2+Y^2=1 \land X \neq 2
\end{align*}

\((2)\)は\(\frac{4Y^2}{(2-X)^2}=\frac{4X}{2-X} \Longleftrightarrow Y^2=X(2-X) \land X \neq 2\)
\((3)\)は\(Y^2=X(2-X) \land X \neq 2\)が変数\(s,t\)を含まないので,\(\exists s\exists t\)の支配域を変更することができるから
\((4)\)は\(\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \right] \Longleftrightarrow X \neq 2\)より
\((5)\)は
\[p \land q \Leftrightarrow q \land p,\quad p \land p \Leftrightarrow p\]
によります(いずれも真理値表から明らか)

【変形2】
\begin{align*}
&\exists s \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t \right]&(0)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[ \exists t \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t\right]\right] &(1)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land \exists t\left[ t = \frac{X}{2-X} \land s^2=4t\right]\right] &(2)’\\
\Longleftrightarrow~&\exists s \left[s = \frac{2Y}{2-X} \land s^2=\frac{4X}{2-X}\right] &(3)’\\
\Longleftrightarrow~&\left(\frac{2Y}{2-X}\right)^2=\frac{4X}{2-X} &(4)’\\
\Longleftrightarrow~&Y^2=X(2-X) \land X \neq 2&(5)’\\
\Longleftrightarrow~&(X-1)^2+Y^2=1 \land X \neq 2
\end{align*}

\((1)’\)はそもそも\(\exists s\left[ \exists t[p(s,t)]\right]\)の略記が\(\exists s \exists t[p(s,t)]\)だから
\((2)’\)は支配域の変更.\((2)\)と同じ
\((3)’\)は\(\exists t\)の処理
\((4)’\)は\(\exists s\)の処理
\((5)’\)は\((1)\)と同様の同値変形によります

\((0)’\)から\(~(4)’\)までの同値変形はこのように書くと厳ついですがやってることは結局\(s,t\)の消去です.通常は\((0)’\)から\((4)’\)まで一気に一行で処理してしまうところだと思います.

\((0)\)から\((1)\)への変形と\((0)’\)から\((4)’\)への変形に違いに注意しましょう(詳しくはこの記事にて.関連:「『存在する』の扱い」「連立方程式の解法は…『文字を減らす』方針?」).文字を「消去する」ことを正しく認識していないとこういう箇所で間違えてしまうので注意.

【変形1】【変形2】いずれにしても同じ結論です.途中のアプローチが違えど,論理式を正しく扱いすれば必然的に同じ結論が得られる,ということでした.

イプシロン・エヌ論法

数列\((a_n)_{n\in\mathbb{N}} = \left(\frac{1}{n}\right)_{n \in\mathbb{N}}\)について\[\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}a_n=0\]を証明せよ.

\[(a_n)_{n \in \mathbb{N}}:\frac{1}{1},~\frac{1}{2},~\frac{1}{3},~\cdots~,\frac{1}{10},~\cdots~,\frac{1}{100},~\cdots~,\frac{1}{1000},~\cdots\]

ですから,\(0\)に限りなく近づくことは直観的には明らか(?)ですが,これをきちんと定義に従って証明してみます.この記事では,その「限りなく近づく」ことの数学的な定義とはどういうことか,以下の問答通して確認してみます.

「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{10}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{10}\)になりますか?」という問いかけについて考えてみます.こう言われたら,何と答えられるでしょう?…すぐわかるように,答えはyesで「\(n=11\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{11},~\frac{1}{12},~\frac{1}{13},~\frac{1}{14},~\cdots~,\frac{1}{100},~\frac{1}{101},~\cdots\]はどれも\(\frac{1}{10}\)より小さい.


次に,もっと小さい数\(\frac{1}{100}\)をもってこられて,「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{100}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{100}\)になりますか?」という問われたらどうでしょう?今度は先ほどの\(n=11\)じゃ全然だめですね.でも,\(n\)を大きくとって,「\(n=101\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{101},~\frac{1}{102},~\frac{1}{103},~\frac{1}{104},~\cdots~,\frac{1}{1000},~\frac{1}{1001},~\cdots\]
はどれも\(\frac{1}{100}\)より小さい.

では,さらに小さい数\(\frac{1}{1000}\)をもってこられて,「\(a_n(=\frac{1}{n})\)と\(0\)との差は\(\frac{1}{1000}\)以下になりますか?」すなわち「\(\left|\frac{1}{n}-0\right|<\frac{1}{1000}\)になりますか?」と問われたら…?今度は\(n=11\)はもちろん,先ほどの\(n=101\)でも全然だめですね.でも,\(n\)をさらに大きくとって,「\(n=1001\)以降の\(a_n\)なら,いけるよ」と答えられるでしょう.実際,
\[\frac{1}{1001},~\frac{1}{1002},~\frac{1}{1003},~\frac{1}{1004},~\cdots~,\frac{1}{10000},~\frac{1}{10001},~\cdots\]
はどれも\(\frac{1}{1000}\)より小さい.

このように,パワーインフレ大好き小学生を連れてきてとにかく小さい数を言わせて例えば「100億兆分の1!」とか言いだしたとしても,その数に応じて逆数をとって\(1\)を加えて「じゃあ,100億兆1番(目以降)」と,\(a_n\)と\(0\)との差が100億兆分の1になるような項たち(番号たち)を即座に提示できます.一般には,与えられた(小さな)数\(\epsilon >0\)に対して\(\left[\frac{1}{\epsilon}\right]+1\)と提示してやればよいでしょう([]はガウス記号).

どんなむちゃくちゃな(小さな)正の数を言われても,その数に応じて,番号を即座に提示し返すことができる(番号の存在を示せる)とき,数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)は\(0\)に限りなく近づく(収束する)といい,\(\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty}a_n=0\)と書くわけです.これが「限りなく近づく(収束する)」の数学的な定義で,この論法をイプシロン・エヌ論法と言います.

「限りなく近づく」の定義
任意の正の数\(\epsilon\)に対して,\(N \in \mathbb{N}\)が存在し,\(n>N\)ならば,\(|a_n-\alpha| < 0\)が成り立つとき,数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)は\(\alpha\)に収束するといい,\[\lim_{n \rightarrow \infty}a_n=\alpha\]とかく.

上の定義は日本語が長ったらしくて煩わしいですね.論理記号を用いて記述すると,\[\forall\epsilon >0 \exists N \in \mathbb{N} [n > N \Longrightarrow |a_n – \alpha| < 0]\]または\[\forall\epsilon >0 \exists N \in \mathbb{N} \forall n\in \mathbb{N}[n > N \longrightarrow |a_n – \alpha| < 0]\]と簡潔に記述できます.論理式に慣れることはこのような意味でも重要です.また,\(\epsilon\)に応じて\(N\)が定まるわけですから,\(\forall,~ \exists\)の順であることに注意しましょう.

証明のキモ(目標)は,任意に与えられた\(\epsilon\)に対して(応じて),番号\(N\)の存在が示せるか否か,ということです.「存在を示せ」と言われたら,実際にその現物をもってくればよい.この問題で言えば,\(N=\left[\frac{1}{\epsilon}\right]+1\)と現物を提示できたので,証明が完了したことになります.

この定義により,高校段階では証明ぬきに使っていたこんな公式や,直観的に受け入れるしかなかったはさみうちの原理なんかも証明できます.

\(\exists x[a \leq x \leq b] \Longleftrightarrow a\leq b\)

\(\exists x[a \leq x \leq b] \Longleftrightarrow a\leq b\)

証明

(\(\Rightarrow\))
存在する\(x\)を\(c\)とおくと,\(a \leq c \leq b\)が成り立つ.ゆえに\(a \leq b\)がいえる.

(\(\Leftarrow\))
\(a \leq b\)とする.このとき,\(\frac{a+b}{2}\)をとれば,\(a \leq \frac{a+b}{2} \leq b\)とかける.すなわち\(a \leq x \leq b\)をみたす\(x\)が(\(\frac{a+b}{2}\)として)存在する.

(証明終)

この問題で使いました.

同値変形で遊ぶ

\(x,y\)が\(4\)つの不等式\[x \geq 0,~y \geq 0,~2x+y \leq 8,~2x+3y \leq 12 \]を同時に満たすとき,\(x+y\)の最大値,最小値を求めよ.

出典:高等学校 数学Ⅱ 数研出版

数学Ⅱ教科書の「軌跡と領域」における最後に登場する中ボス的な有名問題です.いわゆる「線型計画法」によって解く問題ですね.「領域を描いて~直線がその領域に触れる範囲内で切片が最大・最小のものを答えて~」みたいなやつ.

これを教科書のように絵に頼らず,論理式で記述してみます.

解答

\begin{align*}
&x+yがkという値をとる\\
\Longleftrightarrow~& \exists x \exists y [x+y=k \land x \geq 0 \land y \geq 0 \land 2x+y \leq 8 \land 2x+3y \leq 12]\tag{1}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x \exists y[y=k-x \land x \geq 0 \land y \geq 0 \land 2x+y \leq 8 \land 2x+3y \leq 12]\tag{\(\ast\)}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [x \geq 0 \land k-x \geq 0 \land 2x+(k-x) \leq 8 \land 2x+3(k-x) \leq 12\tag{2}]\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x]\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [(x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x)\land (3k-12<0 \lor 0 \leq 3k-12)]\tag{3}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [(x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x \land 3k-12<0) \\
&\lor (x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x \land 0 \leq 3k-12)]\tag{4}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x \land 3k-12<0] \\
&\lor \exists x[x \geq 0 \land k \geq x \land x \leq 8-k \land 3k-12 \leq x \land 0 \leq 3k-12]\tag{5}\\
\Longleftrightarrow~& \exists x [0 \leq x \leq k \land 3k-12 \leq x \leq 8-k \land 3k-12<0] \\
&\lor \exists x[0 \leq x \leq k \land 3k-12 \leq x \leq 8-k \land 0 \leq 3k-12]\\
\Longleftrightarrow~& (0 \leq k \land 3k-12 \leq 8-k \land 3k-12<0) \\
&\lor (0 \leq k \land 3k-12 \leq 8-k \land 0 \leq 3k-12)\tag{6}\\
\Longleftrightarrow~& (0 \leq k \land k \leq 5 \land k < 4) \lor (0 \leq k \land k \leq 5 \land 4 \leq k)\\
\Longleftrightarrow~& 0 \leq k < 4 \lor 4 \leq k \leq 5\\
\Longleftrightarrow~& 0 \leq k \leq 5
\end{align*}

したがって,最大値\(5\),最小値\(0\).

\((1)\)は式の主張そのままなのですが,慣れないとこの言い換えが一番難しいかも知れません.この記事と同じ考え方です.
\((2)\)は存在記号の処理
\((3)\)は恒真条件\(3k-12<0 \lor 0 \leq 3k-12\)の追加
\((4)\)は分配法則
\((5)\)は存在記号の分配
\((6)\)はこちらの記事

…と,この解法はもはや完全に趣味ですね^^;大人しく教科書と同じく線型計画法で解いた方が明快でスマートだと思います.しかし,この解法のおもしろポイントは絵に頼らない(数直線はイメージしますが…)で論理を’計算’する感覚で機械的に答えにたどりつく,という点です(以前紹介した軌跡の問題と同じ).視覚的に解く以外にも,こういった論理だけでゴリゴリ攻める姿勢も身に付けておいても決して無駄にはならないと思います.

ちなみに教科書の解法(線型計画法)は\((\ast)\)の段階で視覚化を考えた,と考えられます.ですからいずれの解法にしても\((1)\)の言い換えは本来教科書レベルであっても必要なものだと思います.例によって「解ければいいや」で覚えて済ましがちですけどね.

\(p \rightarrow q \Longleftrightarrow \overline{p}\lor q\)

極めてよく使う同値変形\[p \rightarrow q \Longleftrightarrow \overline{p}\lor q\]を確認してみましょう.真理値表を書いて調べてみます.実際に紙の上で調べる際の手順を再現してみます(一緒に書いてみてくださいね).

まず,命題\(p\)と命題\(q\)の真偽の組合せは以下のように\(2\times 2\)通りあります.


次に,\(p \rightarrow q\)について調べたいので,最上行にそれを書きこみましょう.\(\rightarrow\)の定義から,その真理値は以下のように書けます(\(p\)が真で\(q\)が偽であるときのみ,\(p \rightarrow q\)は偽であるのでした).


次に,調べたい\(\overline{p}\lor q\)を同じく最上行に書き込みます.


いきなり\(\overline{p}\lor q\)の真理値を書き込むのは難しいので,順を追って書き込むことにします.まずは\(\overline{p}\)から.これは簡単ですね.定義により,次のように書き込めます.


次に\(q\).これはそのまま.


いよいよ\(\overline{p}\lor q\)の真理値.\(\lor\)の定義により,


さて,\(p \rightarrow q\)と\(\overline{p}\lor q\)の真理値をながめてみましょう.真理値が一致しています.すなわちこの二つの命題は同値であることが確認できます.

※ 本来ならば,\(p,~\overline{p},~\overline{p}\lor q\)の真理値はそれぞれ別々の列に書くのが正しい(と思う)のですが,面倒なので上のように略記しています.

平行移動の公式

平行移動の公式
\(y=ax^2\)のグラフを,\(x\)軸方向に\(p\),\(y\)軸方向に\(q\)だけ平行移動した放物線は\[y=a(x-p)^2+q\]である.

この公式を教科書ではどのように説明しているかというと…

\(y=2x^2,~y=2x^2+3\)という具体例を持ち出してこの二者の関係を調べて(表または実際にグラフを描き),そこから\(y=2x^3+3\)のグラフは,\(y=2x^2\)のグラフを\(y\)軸方向に\(3\)だけ平行移動したものである,と結論し,
\[\downarrow\]
\(y=2x^2,~y=2(x-3)^2\)という具体例を持ち出し,表からこの二者の関係を調べて\(y=2(x-3)^3\)のグラフは,\(y=2x^2\)のグラフを\(x\)軸方向に\(3\)だけ平行移動したものである,と結論し,
\[\downarrow\]
そしてこの二つから上の公式を結論しています(詳しくはお手持ちの教科書参照).

この公式に限らず,高校の教科書は\[\textbf{具体例}\rightarrow\textbf{一般論}\]という書き方をしています.「この場合はこうだよね~,あの場合もこうだよね~,ということは一般にこう言えるよね~」という論法ですね.これで「ああなるほど!」と思えればいいんでしょうけど,なんか騙された気がするひとも少なくないはず.実際,数学を学ぶ姿勢としてはこれだけでは納得できない(しない)方がむしろよいと思います.二,三の例が正しいからとしって他の例も正しいとは限りませんからね.

というわけで証明(※注意 pdfファイルです)

いわゆる「教科書通り」にやるとこういったことを飛ばすことになるんですが,それが「数学を勉強している」ことになるんでしょうか…?もっとも,こういった話はテストに出ない(出せない)わけですからやったところでスコアにはならない.その意味においてはやる意味がない,のかもしれませんが….でも,天下り的に与えられた解決策をただ覚えるだけではないある意味メタ的な能力を培うことも数学を学ぶ重要な意義のひとつだと思うんですが.まあ,教える側,教わる側共々様々な事情・制約がありますから,難しい問題です.

 

使おう,位置ベクトル

位置ベクトルとは,「始点が原点であるようなベクトル」のことです.

平面上の任意の点\(\mathrm{A}\)に対して,ベクトル\(\overrightarrow{\mathrm{OA}}=\boldsymbol{a}\)をその位置ベクトルという.ただし\(\mathrm{O}\)は座標の原点である.

松坂和夫「線形代数入門」岩波書店

 

なぜ「始点が原点である」だけで「位置ベクトル」なんて名前をつけてまで差別化するのでしょうか.それは,始点が原点にあるがゆえに,ベクトルの成分とベクトルの先っぽ(終点)が指し示す点の座標が一致するからです.例えば,点\(\mathrm{P}\)の座標が\((2,1)\)であるならば,位置ベクトル\(\overrightarrow{\mathrm{OP}}\)の成分は\(\left(\begin{array}{c} 2 \\ 1 \\ \end{array} \right)\)だし,逆に位置ベクトル\(\overrightarrow{\mathrm{OP}}\)の成分が\(\left(\begin{array}{c} 2 \\ 1 \\ \end{array} \right)\)ならば点\(\mathrm{P}\)の座標は\((2,1)\)です.単純なことですが,位置ベクトルにおいてはこの性質-座標とベクトルが同一視できること-が極めて重要です.

※注意1 ベクトルの成分を縦に書いたものを「列ベクトル(または縦ベクトル)」と呼びます.他方,ベクトルの成分を横に書いたものを(高校教科書での記法)「行ベクトル(横ベクトル)」とよびます.どちらも同じものですがベクトルの成分を書くときは高校段階であっても行ベクトルではなく列ベクトルで表記した方がいいでしょう.どうせ大学へ行けば列ベクトル表記の方がむしろ当たり前になりますし,高校段階であってもそれが「成分」なのか「座標」なのかを意識するためにベクトル(の成分)は横,座標は縦,と区別して書くべきです.また列ベクトルだと成分計算がし易いという利点もあります.テスト・模試等でも列ベクトルを用いても大丈夫です.減点されることは絶対にありえませんから.

※注意2 問題によっては「点\(A\)に関する位置ベクトルを…」といい,始点を\(A\)などととることがあります.その場合には,「点\(A\)を自前で設定した座標系の原点」と考えればいいだけです.

位置ベクトルをこのように「始点を原点にとったときのベクトル;矢印の終点が指し示す座標」と見なせば,次のような問題も容易に発想できます.

半径の円\(a\)の円が\(x\)軸上を滑ることなく回転するとき,円上の定点\(\mathrm{P}\)の描くサイクロイドの媒介変数表示を求めよ.ただし,点\(\mathrm{P}\)の最初の位置を原点\(\mathrm{O}\),円の中心の最初の位置を\((0,a)\)とする.

どのような状況なのかイメージするは,言葉で説明するより図を見た方が早いでしょう.

この赤線上の点\(\mathrm{P}\)の座標を求めることを考えます.欲しいものは点\(\mathrm{P}\)の座標なわけですが,『点\(\mathrm{P}\)の座標=\(\overrightarrow{\mathrm{OP}}\)の成分』でしたから,位置ベクトル\(\overrightarrow{\mathrm{OP}}\)を求めることにします.


ベクトルなのだから,ベクトルの和の定義により,下図のように\[\overrightarrow{\mathrm{OP}}=\overrightarrow{\mathrm{OH}}+\overrightarrow{\mathrm{HC}}+\overrightarrow{\mathrm{CP}}\]と分解できます.

したがって\(\overrightarrow{\mathrm{OH}},~\overrightarrow{\mathrm{HC}},~\overrightarrow{\mathrm{CP}}\)をそれぞれ求めればよい.

まず\(\overrightarrow{\mathrm{OH}}\)から.

このベクトルは始点が既に原点にありますから,位置ベクトル,すなわちその成分と終点が指し示す座標が一致しているはずです.したがって\(\overrightarrow{\mathrm{OH}}\)の終点が指し示す座標を調べればよい.\(\mathrm{OH}=\text{孤}\mathrm{PH}\)であることに注意すると(「滑らずに」転がしたんだから!右図参照),\(\mathrm{OH}=a\theta\).したがって点\(\mathrm{H}\)の座標は\((a\theta,0)\)で,(座標と成分が対応するから)\(\overrightarrow{\mathrm{OH}}\)の成分は\(\left(\begin{array}{c} a\theta \\ 0 \\ \end{array} \right)\)となります.

次に\(\overrightarrow{\mathrm{HC}}\).

始点が原点にあれば,そのまま終点が指し示す座標を読めばいいのですが,これは始点は原点ではありませんね.しかしベクトルは向きと大きささえ変えさえしなければ自由に動かせるのでしたから,始点を原点にとってから,その終点の座標を読めばよいでしょう.始点を原点にとったときのベクトルの終点が指し示す座標は\((0,~a)\)ですから,そのベクトルの成分は\(\overrightarrow{\mathrm{OH}}\)の成分は\(\left(\begin{array}{c} 0 \\ a \\ \end{array} \right)\)となります.

最後に\(\overrightarrow{\mathrm{CP}}\).

やはり始点を原点にとってから,その終点の座標を読みましょう.始点を原点にとったときのベクトルの終点が指し示す座標は
\begin{align*}
&(a\cos\left(-\left(\frac{\pi}{2}+\theta\right)\right),~a\sin\left(-\left(\frac{\pi}{2}+\theta\right)\right))\\
=&(a\cos\left(\frac{\pi}{2}+\theta\right),~-a\sin\left(\frac{\pi}{2}+\theta\right))\\
=&(-a\sin \theta,~-a \cos \theta)
\end{align*}
ですから,求めるベクトルの成分は\(\left(\begin{array}{c} -a\sin \theta \\ -a \cos \theta \\ \end{array} \right)\)となります.

以上により,
\begin{align*}
\overrightarrow{\mathrm{OP}}&=\overrightarrow{\mathrm{OH}}+\overrightarrow{\mathrm{HC}}+\overrightarrow{\mathrm{CP}}\\
&=\left(\begin{array}{c} a\theta \\ 0 \\ \end{array} \right)+\left(\begin{array}{c} 0 \\ a \\ \end{array} \right)+\left(\begin{array}{c} -a\sin \theta \\ -a \cos \theta \\ \end{array} \right)\\
&=\left(\begin{array}{c} a(\theta-\sin \theta) \\ a(1 – \cos \theta) \\ \end{array} \right)\\
\end{align*}

(くどいようですが)位置ベクトルの成分とその終点が指し示す座標は対応しているのですから,結局,
\[
\begin{eqnarray}
\begin{cases}
x = a(\theta-\sin \theta) & \\
y = a(1 – \cos \theta) &
\end{cases}
\end{eqnarray}
\]

が得られたことになります.

位置ベクトルについて強調すべきはその定義「始点が原点であるようなベクトル」であり,ゆえに,「ベクトルを座標と見なせる」点だと思うのですが,教科書はそこが強調されていない.僕はかつて予備校でこれを習いましたが,ベクトルが初めて「道具として役に立つ」と感じられたこと,そしてベクトルを座標とみなすという別の概念を同一視するという感覚が新鮮で嬉しかった記憶があります.実際,位置ベクトルを用いるとカージオイドやエピサイクロイドなどの他の曲線もまったく同様に媒介変数表示できますし,また数学Ⅲで学ぶ複素数平面においても有用です(例によって教科書では位置ベクトルを用いた説明などしてはくれません).教科書を機械的・天下り的になぞるのもひとつの学習法ではありますが,こういったことを学ぶのもまた大事です.

ついでながら.教科書は「誤り・誤植がほとんどない」という意味においては最も信頼できる本のひとつだと思います.が,しかし,「誤りがないこと=最善」であるとは限りません.教科書と違う考え方・解法というものに抵抗を感じる人も少なくないと思いますが,食わず嫌いせずに興味をもって身に付けてみましょう.きっともう一皮むけますから.

もっと積極的に使おうぜ,位置ベクトル.

\(f(g(x))g'(x)\)の不定積分

\[\displaystyle \int f(g(x))g'(x) dx=\int f(u) du \quad\text{ただし,}g(x)=u\]

教科書では,この公式の下で,次のような問題と解答を用意しています.

問題 次の不定積分を求めよ.
\[\displaystyle \int x\sqrt{x^2+1}dx\]

引用元:『高等学校 数学Ⅲ』数研出版

\(x^2+1=u\)とおくと\(2xdx = du\)

\begin{align*}
\displaystyle \int x \sqrt{x^2+1}dx &= \frac{1}{2}\int \sqrt{x^2+1}\cdot 2x dx\\
\displaystyle &= \frac{1}{2}\int \sqrt{u} du=\cdots\\
\displaystyle &=\frac{1}{3}(x^2+1)\sqrt{x^2+1}+C
\end{align*}

引用元:『高等学校 数学Ⅲ』数研出版

 

置換してますね.

ところで,\(\int f(u) du\)って\(f(u)\)の原始関数なんだから,上の公式は
\begin{align*}
\displaystyle \int f(g(x))g'(x) dx&=\int f(u) du \quad\text{ただし,}g(x)=u\\
\displaystyle &=F(u) + C\quad\text{ただし,}g(x)=u\\
\displaystyle &=F(g(x)) + C\\
\end{align*}

と変形して,

\[\displaystyle \int f(g(x))g'(x) dx = F(g(x)) + C\]

とも書けますね.というか,これを公式としたほうが良くない…?そうすれば「被積分関数が\(f(g(x))g'(x)\)という形をしていれば,\(f(\quad)\)の原始関数を求めて,その’中身’である\(g(x)\)をそのまま放り込めばいい」という簡単な使い方に変わると思うんですが….

あと教科書の解説だと全ッ然強調してないのですが,この公式が使えることにそもそもどうやって気付くのか?が実用(受験)上では極めて重要です.たとえこの公式を知識として持っていても気付かなければ使おうという発想に至りませんからね.気付くためのポイントは被積分関数に\(g(x)\)と\(g'(x)\)という二人がいるかどうか?です.この「\(g,~g’\)」が見つかったら,まずこの公式のタイプだと思って間違いないでしょう.そして見つかった\(g(x)\)と\(g'(x)\)のうち,\(g(x)\)を\(X\)などとおいて浮かび上がってくる関数が\(f(X)\)です.そしてその\(f(X)\)の原始関数(の1つ)さえ見つけらればこの積分計算はそれで終わりです.

上の例でやってみましょう.\(x^2+1\)と\(x\)の間にその\(g,~g’\)関係がありそうですね.でも惜しいことに\(x^2+1\)を微分すると\(2x\)です.今あるのは\(x\)だからちょっと違う.まあでも,係数の違いは微調整して\(x=\frac{1}{2}\cdot 2x\)と思っておけばいいでしょう.これで\(g(x)\)が見つかりました.これを\(X\)とおいてその部分を眺めてみましょう.すると\(\sqrt{X}=X^{\frac{1}{2}}\)となります.これが知りたかった\(f(X)\)です.あとはこれの原始関数(の1つ)を求めればいい.\[\frac{1}{\frac{1}{2}+1}X^{\frac{1}{2}+1}=\frac{2}{3}X^{\frac{3}{2}}\]
あとは\(\frac{2}{3}(\quad)^{\frac{3}{2}}\)にもともとあった\(g(x)=x^2+1\)を放り込んで\(\frac{1}{2}\cdot\frac{2}{3}(x^2+1)^{\frac{3}{2}}\).たったこれだけで終了.置換などする必要がない.ちなみに先頭の\(\frac{1}{2}は\)先ほど\(g'(x)\)を\(\frac{1}{2} \cdot 2x\)と微調整しておいてときの\(\frac{1}{2}\)です.以上解答としてまとめると

\begin{align*}
\displaystyle \int x \sqrt{x^2+1}dx &= \frac{1}{2}\cdot\frac{2}{3}(x^2+1)^{\frac{3}{2}}+C\\
&= \frac{1}{3}(x^2+1)^{\frac{3}{2}}+C
\end{align*}

ほぼ一行で終わります.「\(f,g,g’\)」タイプにおいてすべきことは\(f(\quad)\)を見つけ出しその原始関数(の1つ)を求めるだけです.教科書のようにダラダラと置換してはいけません.

軌跡と同値関係

原点\(O\)からの距離と点\(A(3,0)\)からの距離の比が\(2:1\)である点\(P\)の軌跡を求めよ.

教科書では「点\(P\)の軌跡を求める手順」を次のように言っています

    1. 条件を満たす点\(P\)の座標を\((x,~y)\)として,点\(P\)に関する条件を\(x,~y\)の式で表し,この方程式が表す図形が何かを調べる.
    2. 逆に,で求めた図形上のすべての点\(P\)が,与えられた条件を満たすことを確かめる.

引用元:『高等学校 数学Ⅱ』数研出版

 

で,その解法に従った解答が,

点\(P\)に関する条件は\[OP:AP=2:1\]
これより\[2AP=OP\]
すなわち\[4AP^2=OP^2\]
\(AP^2=(x-3)^2+y^2,~OP^2=x^2+y^2\)を代入すると\(4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\)
整理すると\(x^2-8x+y^2+12=0\)すなわち\((x-4)^2+y^2=2^2\).
よって点\(P\)は円\((x-4)^2+y^2=2^2\)上にある.
逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす.
したがって,求める軌跡は,点\((4,~0)\)を中心とする半径\(2\)の円である.

引用元:『高等学校 数学Ⅱ』数研出版

 

とあります.ここで疑問.

逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす」これは何?っていうか,なぜこんなことが言えるの?実際にその「すべての点」について「距離の比が\(2:1\)である」と調べたってこと?でも「すべての点」って,得られた図形は円だから円上の点,すなわち「無限個の点」ということでしょ?無限回計算して調べるわけ…??

…と思った人も少なくないはず.これ,疑問を持つほうが自然で,その人の理解力が無いんじゃなく,はっきり言って教科書のほうが悪い.まさに教科書特有のダメダメ記述の代表格.にもかかわらず何のフォローもないという.結果どうするか?「良く分からないから覚えよう」になる.だからあまり深く考えない人ほどテキトーにスルーして得点できる.こんな勉強を強いられる(真面目な)高校生が本当かわいそう.

別解を示します.

解答
\[
\begin{align}
&OP:AP=2:1\\
\Longleftrightarrow &~2AP=OP\\
\Longleftrightarrow &~4AP^2=OP^2\\
\Longleftrightarrow &~4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\\
\Longleftrightarrow &~x^2-8x+y^2+12=0\\
\Longleftrightarrow &~(x-4)^2+y^2=2^2\\
\end{align}
\]
したがって,求める軌跡は,点\((4,~0)\)を中心とする半径\(2\)の円.

このようにかけば逆の考察など必要ありません.その理由は,上のように一連の式の間の論理関係を見てらえればわかりますが,どれも同値変形だからです.このような同値記号を用いた記述であれば,このこと,すなわち「各式は明らかに同値だから,逆の考察はしないよ」という意思表示になっています.だから逆の考察は必要ない,というわけです.

対して,教科書の解答はどういう意図のもとに「逆に~」を書いているのでしょうか.解答では「これより」「すなわち」「整理すると」「よって」…という(数学的定義のない)日本語を多用しているところを見るに,各段階において十分性を意識せずに変形している,と考えられます(「最初に十分性を追わずに必要性だけ追っていき,あとで別枠で十分性を調べる」という論法自体は数学ではよく見られる方法で,それ自体は問題はありません).論理式で書けば

\[
\begin{align}
&OP:AP=2:1\\
\Longrightarrow &~2AP=OP\\
\Longrightarrow &~4AP^2=OP^2\\
\Longrightarrow &~4\left\{(x-3)^2+y^2\right\}=x^2+y^2\\
\Longrightarrow &~x^2-8x+y^2+12=0\\
\Longrightarrow &~(x-4)^2+y^2=2^2\\
\end{align}
\]

という構造になっているので,最後に元の条件と同値であるかどうか確認が求められる,だから上の論理式において「\(\Leftarrow\)も言えるよ」という意味で「逆に,この円上のすべての点\(P(x,~y)\)は,条件を満たす.」と書いたのでしょう.しかしこれもかなり譲歩して読み取ればの話で,解答の書き方では冒頭に記したように「\((x-4)^2+y^2=2^2\)をみたすすべての点,つまり無限個の点について距離の比が\(2:1\)であると無限回調べた」としか読み取れないと思うんですがね.

もちろん教科書特有の色々な制約の下でのやむを得ない記述なんでしょうけど,正直者が馬鹿を見る(真面目な;思慮深い生徒が躓く)的な記述はいかがなものか,と思う.せめて解答欄外でフォローしようよ,と思いますね.これだから教科書至上主義は危険です.

「いやそんなややこしいこと考えずともに最後に『逆に~』の一言を書いときゃそれでOKでしょ点数は貰えるし」と思う人.それは教科書レベルでの話.少し発展的な問題になると痛い目にあいますよ.

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